カナダ・トロント発!美容業界のクリエイティブを作り上げたパイオニア・ブランド MAC Cosmeticsのビジネスに迫る | 特集「 カナダで美を操る」

キッチンで商品開発が始まった『M・A・C』は、現在世界50カ国以上に計1500近くの店舗を展開


 M.A.C Cosmetics(以下M・A・C)は、カナダ・トロント発のコスメティック・ブランドとして知られている。『M・A・C』は、Make-Up Art Cosmeticsの略で、元々はプロのメイクアップアーティストやモデル、カメラマンなどのために、メイクアップアーティスト兼カメラマンのフランク・トスカン氏とヘアサロン経営者のフランク・アンジェロ氏によって設立された。

 当時の美容業界では、ほぼ全てのコスメティックブランドが圧倒的にスキンケア用品に集中しており、写真映えするコスメティック製品の不足に嘆いたトスカン氏とアンジェロ氏は、その解決策として自らコスメティックを作ろうと、キッチンで商品開発を行い、サロンやプロの同業者に直接販売を開始した。その後間も無くしてスタイリストやファッション編集者などの注目を集め、業界で口コミが広がり、人気は急上昇していった。

 そして1984年3月、トロントのデパートで一般消費者に向けて販売を開始、現在では、世界50カ国以上に計1500近くの店舗を展開し、世界中で長年愛されているコスメティックブランドとして成長を続けている。

現在はアメリカ・ニューヨークに本社を置く「エスティ・ローダー」傘下

 現在のビジネス規模は、1994年にアメリカ、ニューヨークに本拠地を置く、化粧品やスキンケア用品、香水などを主に取り扱うメーカー、「エスティ・ローダー」の傘下に入り、グループの中で『M・A・C』は独立店舗やカウンターを次々と世界中にオープンした。『M・A・C』はエスティー・ローダーの数あるブランドの中でも、実力・人気ともにトップ3にランクインしている。

 また、プロのメイクアップ・アーティストらが集まっている『M・A・C』チームは、プラバル・グルン氏やヴィヴィアン・ウエストウッド氏などのデザイナーやトップ・メイクアップ・アーティストとコラボレートし、国際的なファッションショーのバックステージでも活躍し始める。そうして培われた『M・A・C』ブランドは北米だけでなく、瞬く間に世界中に広まっていき、今では毎シーズン200以上のコレクション・メイクを手掛けている。

 現在、『M・A・C』は店舗購入のほか、オンライン販売も成長し、120ヶ国以上の国と地域で入手可能となっている。また、独立店舗だけでも500店舗を超える規模となっており、これらは、全てプロのメイクアップ・アーティストらによって手がけられており、人気コスメティックブランドとして世界トップ3のブランドとなっている。

for All Ages, All Races, All Genders

 グローバルブランドとしての位置を確立し、世界中で愛され続けている『M・A・C』。“for All Ages, All Races, All Genders”(全ての年齢、人種、性別のために)を基本理念として、現代社会でも重要視されている多様性と個性を重んじるその姿勢に『M・A・C』の魅力が詰まっている。

 創業当初から今でも変わらない、〝メイクアップは、変身可能で斬新かつ屈託も批判もないもの〟であるという、設立者のトスカン氏とアンジェロ氏からのメッセージが込められている。そのため百万人を越す世界中のファンにとって『M・A・C』は一人一人にとって非常に多くことを意味している。そうしてあらゆる肌の色合いに注目しながら、クオリティの高さはもちろん、男女関係なく、どんな肌の色にも合うように豊富なカラーバリエーションと幅広い質感の芸術性溢れるコスメティック製品を提供しており、その姿勢こそが、ユニークでスピリットに溢れたブランドとして、幅広い人気を誇っている。

 『M・A・C』は、アイメイクからフェイスメイク用品、口紅、さらにメイクブラシなどメイクアップ用品全般を取り扱い、カラーバリエーションは100色を超える。消費者やプロのメイクアップ・アーティストらのニーズに応えるべく、常に新たなジャンル、製品への挑戦と開発を続けており、毎年50種類以上のコレクションを発表している。

「プラダを着た悪魔」のアン・ハサウェイの魅力的な唇の秘密は、『M・A・C』のRussian Red

 中でも長年愛され続けている人気商品は口紅である。『M・A・C』の口紅は他のどの非薬局ブランドよりも購入されており、特にマット系リップスティックRussian Redは、当時人気急上昇中であったマドンナのブロンド・アンビション・ツアー(1990年)のステージ上で使われたことから、爆発的に注目され、トップセラーとなった。その後マドンナは『M・A・C』Tシャツも着たことでさらにブランド力が高まることになった。 また、ヒット映画「プラダを着た悪魔」で主演女優のアン・ハサウェイが映画内でRussian Redを使用したことでも有名である。

 カナダ内でも世界的に最も人気のカラーは1999年に発売されたRuby Wooで、1分に4つずつの勢いで購入されているという。口紅の中身、通称Bullet(弾丸)の形や要素は発足以来から変わっておらず、他のどのブランドよりも鋭い形に作られている。また、1980年代に発売開始された7つのコレクション「New York Apple」、「Pink Nouveau」、「M・A・C Red」、「Bronze Shimmer」、「Russian Red」、「Chili」、「Mocha」は今でも販売されており、その人気は止まることはない。同ブランドの口紅は、オンタリオ州のマーカムエリアで製造されており、1秒に1つのペースでBulletが作られていると同時に、これは世界中で購入されているペースと同じだという。

 いくつもの質感で軽めなタッチのジェルタイプのものからサテン、透き通った色のもの、高度に着色されたレトロマットタイプのものまでその種類は非常に豊富で、オリジナルの製品は全て黒いケースに入っておりそのカラーが引き立つように意図されている。

美容業界初の試みとして、メイクアップ・アーティストが接客をするというスタイルを確立

 『M・A・C』の特徴はその店舗にもある。一度でも店舗に足を運んだことがある方はご存知だろうが、『M・A・C』ではトレーニングを受けたメイクアップ・アーティストが直接接客をしている。これは美容業界で初の試みであった。現在 『M・A・C』で働く世界中のメイクアップ・アーティストはなんと2万人にも及ぶ。各店舗のメイクアップ・アーティストはメイクアップのスキルはもちろん、トレンドの理解、一つ一つの製品の知識を兼ね備えており、個人に合わせたメイクアップのコンサルティングとレッスンをその場で提供することでそれぞれのカスタマーとこれらの専門的技術を共有している。


 同ブランドのメイクアップ・アーティストのトップ、ゴードン・エスピネ氏は、「メイクアップを通して人々がそれぞれのストーリーを描くことができる環境を作ることが第一で、それこそが『M・A・C』の核心である」と語る。そのためメイクアップ・アーティストらは即興的であったり、突拍子もなかったり、奇抜で斬新なニーズにも臨機応変に対応できるよう教育されている。

 また、比較的高い給与をそのアーティストに用意することでアーティストらがそれぞれのカスタマーと真の深い関係を築くことに集中できる環境を作っている。これらのカスタマーに対する姿勢と、類い稀なメイクアップの高い芸術性が美容業界での権威を築き、トレンドのリーダー的存在として世界中で評価される一因ともなっている。

 そして、プロのメイクアップ・アーティストのために作られたコスメティックブランドなだけあり、プロメイクアップ・アーティストとしての証明書を提示すると大幅なディスカウントで製品を購入できるなどの権利や、さらなるメイクアップスキルの向上のためのクラスやネットワークイベントなどに参加できる権利などが含まれた「The M.A.C. Pro Membership Program」を用意している。

様々な分野の多彩なアーティストやデザイナー、セレブ達とのコラボレーション

 『M・A・C』は、トレンドの最先端をリードするためにファッションだけでなくアート、ポップカルチャーなどの様々な分野の多彩なアーティストやデザイナー、セレブ達とのコラボレーションにも力を入れている。例えばこれまでに歌手のセリーナゴメス、リアーナやロード、モデルのブルックシールズ、女優のマリリンモンロー、アメリカのファッションブランド・プロエンザスクーラー、海外でも人気の高いハローキティ、そしてイギリスのミュージカル・ホラー映画ロッキーホラーショーなど数々の著名人・作品とコラボをしてきた。これらのコラボの際は、それぞれ特別なデザインのパッケージに製品が収められている。

様々な活動を通した社会貢献

 『M・A・C』は社会貢献活動も積極的なことで知られている。例えば、エイズが世界中で拡散し続け、この病に対する多くの誤解や偏見に溢れていたことをきっかけに、その知識を高め誤解・偏見、そして病自体の撲滅を目指すため創設者のトスカン氏とアンジェロ氏は、1994年に独自のエイズ基金を設立。リップスティック“VIVA GLAM”ラインを通じてチャリティ活動を開始。この活動では“VIVA GLAM”リップスティックの全ての売上を世界66カ所の国と地域でこの病に苦しむ人々の生活をサポートするエイズ支援団体に寄付しており、今までに4億5千ドル以上を寄付している。

 キャンペーンでは、ここでも型にはまらないユニークなカルチャーに全身全霊をかけてきた同ブランドならでは、その広告塔・スポークスマンにアトランタ出身のドラッグクイーン、ルポールを抜擢。ここからも多様性と個性を大切にするスピリットを感じることができる。さらにこれまでにレディー・ガガ、パメラ・アンダーソン、ニッキー・ミナージュ、マイリー・サイラス、最近ではアリアナグランデなど数多くのセレブ達が当キャンペーンに賛同しながら関わってきている。

 他にも化粧品製造の際によく話題になる動物実験に反対しており、製品のテストの際に動物を使っていないことは有名だ。さらに、これまでのメイクアップブラシについてメジャーチェンジすることをつい先月発表。ブラシに使われている全ての動物の毛を取り除き、100%人工ヘアーに変更された。人工ヘアーのブラシは動物に優しいだけでなく、その吸収性の違いから液体のコスメティクスを使う際にも動物の毛を使ったブラシよりも良い働きをする。一方で、動物の毛を使用したブラシの方が柔らかくパウダー製品使用時に優れているという懸念も挙がったが、メイクアップ・アーティストのドミニク・ムア氏によると 「今回の人工ヘアーを使用したブラシは自然のものと同じくらいか下手するとさらに柔らかく、ブラシの形も長持ちしやすい。そのクオリティは維持されているか、もしくは向上したとも言えるだろう」と自身のInstagramで述べている。

また、環境問題を意識した活動として「Back to M.A.C」というプログラムも設置している。これは、消費者が使用した『M・A・C』製品の容器6つを店舗のカウンターかオフィシャルウェブサイトを通して返し、規定に沿って商品を無料でもらうことができるプログラムである。

アメリカで人気急上昇中の化粧品ショップ「ULTA Beauty」への参加、カナダではバーチャルメイクアップができるマジックミラーを店舗に設置

 『M・A・C』は、アメリカで人気急上昇中の化粧品ショップ「ULTA Beauty」に参加、eコマースと実店舗で販売を開始した。『M・A・C』グローバルブランドのトップ、カレン・ウェイラー氏によると、今後さらに100店舗以上で『M・A・C』製品の販売を予定しているという。北米内での『M・A・C』店舗のほとんどが大きなショッピングモールやデパートの中に入っていたのに対し、「ULTA Beauty」の店舗はストリップモールなどの比較的小さいモール内や独立店として展開しているので、これは新たな消費者の開拓につながる、良い機会になるとみられている。

 また、カナダでは、今年から 『M・A・C』はカスタマーがさらにメイクアップ・テスティングしやすくするためにバーチャルメイクアップができるマジックミラーを店舗に設置し、29種類のアイメイクからスタートする試みが始まる。製品のカラーと芸術性が失われないように、ハイテクノロジーを駆使されているという。 

 さらに米テキサス州のダラスには、同じ「エスティー・ローダー」の傘下であるヘアサロン「Bumble and Bumble」とタックルを組みメイクアップ・ヘアジオをオープンするなどしている。

「エスティ・ローダー」グループとしては中国・インドへの展開とオンライン・ビジネスの積極的活用

 「エスティ・ローダー」グループ全体としては、中国市場に力を入れており、同国内で非常に人気のある「Tmall」での店舗販売、そしてオンラインショッピングの開始を通して、対昨年売上成長率40%アップという成果を出しており、中国はアメリカ、イギリスに続いて、オンライン販売売上3位に位置しているという。

 そして、インド市場では、人気国内ブランド「Forest Essential」と組み、『M・A・C』を始め各ブランド製品の販売も開始した。今後も両国への投資を拡大しビジネス展開を進めていく方向であり、それぞれの土地の特徴を理解しローカルに馴染んだビジネス展開を行うという考え方だという。