第15回 日系国際児のアイデンティティ: わが家の場合|カエデの多言語はぐくみ通信

第15回 日系国際児のアイデンティティ: わが家の場合|カエデの多言語はぐくみ通信

 日本人と外国人の親から生れる子どもを日系国際児と呼びます。カエデの子どもたちも日本とカナダの国際児です。祖国を2つ持つ彼らのアイデンティティはどのように形成されるのでしょうか?成人した子どもたちに日本語で聞き取り調査をしました。

国際結婚と国際児の実態

 日本人と外国人の国際結婚は年間約3万組です。日本国内では約2万組、海外では約1万組です(e-stat)。日本国内では70%の婚姻の夫が日本人ですが、海外ではその逆で、70%は夫が外国人です。日系国際児は毎年、国内で2万人、海外で1万人、合計約3万人生まれています。

 海外での国際結婚が増えたのは、やはりワーキングホリデー人気が発端です。海外に定住する日本人女性は約32万人(外務省データ)で、そのうち結婚している女性の多くは現在すでに国際結婚しているか、または将来外国人と結婚する可能性があります。現在はコロナで海外渡航が禁止されていますが、それが解かれたら、今後も日本人女性の海外定住が増え、日系国際児も増えていくことが予想されます。

国際児のアイデンティティとは

 国際児のアイデンティティは実に多様で一言では説明できません。彼らのアイデンティティとは「文化的アイデンティティ」のことを指し,「自分がある特定集団のメンバーたちと同じ文化を共有しているという感覚・意識」のことをいいます。しかし、彼らは、例えば日本とカナダのアイデンティティを別々に持っているわけではなく、2つを統合した「国際児としてのアイデンティティ」を形成するのが自然な形です。そのためには、「2つの言語力と文化の知識を習得していること」と「国際児を受け入れる環境」が必要不可欠だそうです。

 「国際児としてのアイデンティ」の形成は実に複雑で、環境に大きく左右されます。例えば、親の国籍の組み合わせ、日本人の親が父親か母親か、生まれた順番、性別、外見(父似か母似か等)、出生地、居住地、家庭環境、経済状態、学校環境等が影響し、アイデンティティの持ち方も子どもによりそれぞれ違います。

わが家の子どもたちの場合

 わが家の子どもたちは、トロントというマルチカルチャーな都会に住んでいることから、自分がミックスであることや、アジア系が強い外見であることに負の感情は持っていません。ただ、自分の外見によって他人種グループとの関わり方に違いがあるようです。他にも、姉弟同じように育ててもアイデンティティに違いが見られます。

 娘:「白人よりアジア系の友人が多いが無意識にそうなった。白人ばかりのグループに自分1人だけいると違和感がある(カナダ側白人の親戚は別)。1対1ならカナダ人としてどの人種でも友達になれる。自分の中の日本人とカナダ人の割合を敢えて言うなら50対50だが流動的だ。日本人の友人といる時は日本の言葉と文化を共有する。モノカルチャーのカナダ人と話す時は、自分の日本人の部分を隠しているわけではないが相手には見えていないだろう。もし日本に住むなら、日本語は完璧ではないし日本文化をすべて理解していないので最初は大変だと思う。戦時中の日系カナダ人の強制収容のようなことが、コロナ禍でのアジア人差別を見ると、また起こるかもしれないと思い不安になる時がある」

Photo by Artem Podrez from Pexels
Photo by Artem Podrez from Pexels

 息子:「自分の中の日本人とカナダ人の割合は30対70。自分は『日本のことをよく知っている日系カナダ人』。高校卒業後半年間日本に1人で住んだが、その前後で自分の日本人の割合は変わらない。その経験で日本人の労働感が理解できて良かった。自分のナショナルプライド(国民の誇り)はカナダにあり、日本のことは客観視できる。カナダは親で日本は叔父さんのような存在。白人グループに自分1人いても違和感はない。自分の日本語は弱いと思うが、バイカルチャー・マルチリンガルになれて良かったと思う。そのお陰で移民に対して寛容になれ、相手の英語レベルに合わせたり、自分の地理や歴史の知識で話題を提供できる。母から受け継いだ日本の文化や食文化は持ち続けたい」

国際児のアイデンティティを形成するには

 先にも述べたように、国際児が安定したアイデンティティを形成するには「2つの言語力と文化の知識」と「受け入れる環境」が必要です。バイリンガルやバイカルチャー教育ができるかどうかは、家庭や社会環境も様々なので一筋縄ではいかないでしょう。ただ、アイデンティティを形成するにはタイムリミットがあるので注意が必要です。

 同族意識が生まれるのが9歳頃なので、それまでに子どもの芯となるアイデンティティ、そしてバイカルチャーに育てたいのであれば2つの文化と言葉を育てておく必要があります。国境をまたいだ移動の多い子どもの場合は特に注意が必要です。大人にとってはたった数年の外国暮らしでも、子どもにとっては人生の大半であり、アイデンティティの形成に大きく影響します。第3国居住の場合は、居住国の言葉と文化の知識も子どものアイデンティティ形成に大事でしょう。

 息子は日本語を話せることで、日本人の母親をより深く理解できると言っています。国際児は父親と母親両方の文化を統合した「国際児のアイデンティティ」を持つことが自然です。国際結婚だから夫の国の言葉と文化の方が大事、または移住先の言葉や文化の方が大事と決める前に、国際児をモノカルチャー・モノリンガルに育ててほんとうに良いのかどうか、じっくり将来を見据えて決めることをお勧めします。

参考: 鈴木 一代「バイカルチュラル環境と文化的アイデンティティ」、嘉本伊都子「『あるかもしれない』時を求めて」