第9回 日本人親の英語は 訛りがつくのでNG?|カエデの多言語はぐくみ通信

 日本人の親が永住者として海外で子どもを育てる場合や日本でのおうち英語、国際結婚で親が2言語を使用する場合など、複数言語で子どもを育てるにはいろいろなパターンがあります。気になるのが、日本人の親が子どもに英語で話しかけると日本語訛りが付くのではないかということと、間違った英語を覚えてしまわないか、ということではないでしょうか。日本人親の英語はNG?ご説明しましょう。

ネイティブ話者でない限り訛る

私は高度に英語を話せますし発音もそれほど悪くありません。しかし、昔は早期英語教育なんて親の念頭になかった時代に、ご多分に漏れず10代の後半から英語を勉強し始め、20代初めに英語圏に留学しました。2人の日加ダブルの子どもをカナダで育てましたが、子どもたちが幼児の間は私が彼らに英語で話しかけることはほとんどありませんでした。自分の英語が不完全であることは自覚していて、子どもに私の訛りや間違いが付くのが嫌だったからです。それでも、夫との英語会話を聞いていたからか、息子に私の英語の癖が付き長い間直りませんでした。

 遅くとも8歳までにたくさん英語に触れていない人の英語には訛りが付くと考えた方が良いでしょう。日本人英会話講師や、英検、TOEICで高得点を取っている人でも、多くの人は日本語訛りがありますし、微妙に文法の誤りもあります。また、よく使う英語表現が限られるのが外国語として英語を学んだ人の特徴です。

 英語が社会言語である国での永住などで、もし将来子どもにとって英語が最も大事な第1言語になるはずなら、ネイティブ話者でない親が幼児に英語で話しかけるのはお勧めしません。幼い間に付いた癖はなかなか取れないので注意が必要です。日本人の親は母語である正しい日本語を教えることに専念したほうが良いでしょう。

第1言語なのか外国語なのか

 では、訛りが付くからと、すべての日本人の親が子どもに英語で話しかけてはいけないのでしょうか?それは環境や目的によって違ってきます。
 先ほども述べたように、英語が社会の主要言語である国に永住する場合、英語は子どもが生きていく上で重要な言葉となるので、訛りや文法の間違いが付くのはなるべく避けます。子どもの英語教育は、国際結婚ならネイティブ話者のパートナーに、そして社会と学校に任せ、日本人の親が子どもに英語で話しかけるのは、子どもが学校に上がり英語が安定してからのほうが良いでしょう。

 しかし、日本でのおうち英語や、学校で外国語として英語を教える場合は違います。外国語である限り、訛りや多少の文法の誤りにそれほど過敏にならなくても良いというのが私の考えです。世界中で、役立つレベルで使える英語話者の80%はノンネイティブであり、私の住む移民大国カナダでも、移民の人たちがお国訛りの英語を使って堂々と生活しています。

 語学学習にはインプットと同時にアウトプットが必須です。日本での早期英語教育の場合、親が子どもの発話の呼び水として英語で語りかけることが必要で、親の英語での語りかけを全く無くすことは難しいでしょう。しかし、テクノロジーの恩恵を受けられる現代は、英語教材、動画、オンライン英会話やオーディオブックでネイティブ話者の英語にたくさん触れることができるので、親の訛りは気にする必要はありません。そして、日本人英会話講師は、英語初心者には日本語で補助してくれ、ネイティブ話者の講師ではわからない日本人特有の弱点を熟知しているので、おおいに利用すると良いでしょう。

質と量とバランスが肝心

 バイリンガル教育の成功は、ターゲットとする言葉の質と量とバランスで決まります。まず、質の良い言葉とは教育を受けた人の言葉を指します。日本人にもあまり質の高い日本語を話せない人がいるのと同様に、英語のネイティブ話者でも英語が怪しい人はたくさんいます。例えば、オンラインレッスンをしている講師が教えられるレベルなのかどうか、許可を取って録音し、誰か英語ができる人に聞いてもらうのも良いでしょう。

 次に学習量です。子ども時代からスタートした場合、使えるようになる外国語学習時間の目安は5千時間です。私の子どもたちは、幼稚園からカナダの公的英仏語バイリンガル教育であるフレンチイマージョンに通い、フランス語も話せるようになりました。フレンチイマージョンでの5千時間の学習とは、幼稚園から小学校卒業くらいまでを指します。

 最後に、言葉のバランスとは、第1言語をどれにするか決めた上で、第2言語との接触量も極端に少なすぎないことを指します。そして、偏りすぎたり、一方の言葉が弱くなってきたと感じたら量を増やして調整します。我が家の子どもたちは、保育園では100%日本語、家庭では私と日本語、夫とは英語で話し、そして社会の言語が英語であったため、50/50の丁度良いバランスでした。学校に上がってからは英語とフランス語の量が圧倒的に増えたので、土曜日の補習校と毎日の日本語の宿題、そしてケーブルテレビの日本語放送を見せるなどして、最低限の日本語の量を確保していました。

 このように、英語が子どもにとってどの程度大事な言葉なのかを見極めてから、親が英語で語りかけるかどうかを決めると良いでしょう。