第4回 海外バイリンガル子育てはやっぱり難しいの?|「子育て&教育」カエデのトライリンガル子育てコラム

Photo by Michał Parzuchowski on Unsplash
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 小さなお子さんを持つ国際結婚のお母さんと話していると、母親が日本語で話しかけてさえいれば日本語は上達すると思っている親御さんが多いようです。しかし、母親と過ごす時間の長い幼児期なら子どもも幼児語で日本語を話しますが、成長するにつれて親の話しかけだけではいずれ太刀打ちできなくなります。残念ながら海外バイリンガル子育てが難しいというのは本当です。しかし、心の準備をするためにも難しさの理由を知っておくことをお勧めします。

学齢期の壁

幼児期には親の語りかけや日本語ナーサリーへの通園、日本語絵本の読み聞かせ等で日本語を話すことができていても、学校に上がる5歳前後で一気に英語(現地語)が子どもの第1言語になります。もし3歳で現地幼稚園に入園させるなら日本語はほぼ消失するでしょう。なぜなら、学校教育の威力は凄まじく、まだ読み書きの基礎ができていない子どもの日本語はたいへん不安定だからです。海外での継承日本語教育は現地校入学(園)が第1関門となります。

学齢期になったらすぐに週末や放課後の日本語学校に入れ日本語教育を続ける必要があります。できれば8歳くらいまでは毎日大量に日本語に接して基礎を作ることが望ましいでしょう。わが家の子どもたちは上の子は8歳まで、下の子は6歳まで日本語保育園と日本語学童保育で毎日日本語に接していました。しかし、共働きなので送り迎えがネックとなり、それ以後は土曜日の補習校が唯一の日本語教育機関となりました。やはり日本語接触量の多かった上の子のほうが、その後の日本語力においては優位となりました。

両親ともに日本人でも油断は禁物です。子どもの日本語力の後退や消失は日本人家庭にも起こります。第1関門の5歳が過ぎると次に学習内容が難しくなる9歳の壁があります。その後は中学で課外活動が活発になり日本語かスポーツか音楽かの選択を迫られます。このように次々に壁が出現して子ども達はどんどん日本語をやめていきます。

1人1言語の難しさ

日本語ばかりしていては子どもの英語が遅れるのではないかと心配になったり、駐在中に子どもをバイリンガルにしたいと考える親御さんは多いと思います。それゆえ流暢でない英語を日本語に混ぜながら子どもに話しかける親御さんがたくさんいます。これは子どもの言葉の成長にとってあまり良い方法とは言えません。親が発音や文法に最も自信を持てる母語である日本語で子どもに語りかけ続け親子の会話言語とすることは重要です。子どもは親の完璧な母語で育つことにより、言葉そのものの基礎を習得するだけでなく、同じ母語を持つことで親子の絆が強まります。

両親が日本人ならどちらも日本語で、国際結婚なら1人の親が1つの言語で家の外でも中でも一貫して話すことを原則とします。しかしこの1人1言語を守ることがとても難しいのです。日本語で話そうとしても子どもが日本語を全部理解できないので英語を混ぜたほうが早いと言うお母さんがたくさんいます。子どもにすべて日本語で理解させることはたいへんな根気が要ります。しかし、それをしないことには、子どもは英語のほうが楽なので日本語での発話がだんだん減っていくでしょう。

そして注目すべきことは、母語の日本語がしっかり身に着いた子どもほど、その後の英語での学習が伸びるということです。

教科学習言語の不足

言葉は大きく会話言語と教科学習言語に分かれます。会話言語は家族や友達の間で日常の意思疎通に使うレベルの日本語を指しますが、教科学習言語は学校で日本語を使って理科や社会などの科目を勉強しなければ身に着きません。海外での継承日本語教育に圧倒的に不足するのがこの教科学習言語です。

この教科学習言語レベルの語彙が不足すると日本語が幼く聞こえ、成長した子どもは恥ずかしがって家族以外の日本人に日本語で話すことを避けるようになります。そして語彙が増えないと親子間の会話が深いものにならず、趣味について話し合ったり、時事や社会問題、子どもの思春期や進学の相談に乗ることもできなくなっていきます。そうなると子どもが親を尊敬しなくなるということも起こり得ます。親の英語力が高ければ問題も少ないでしょうが、親子が十分意思疎通ができ絆を結べる言葉がないことは問題となります。

海外では使える日本語になるまで子どもに学習を続けさせることはたいへん難しく、2世児の継承日本語レベルは最終的に、読みは小学4年生レベル、書ける漢字は小学2年生レベルになるのが一般的です。また、海外での日本語教育は時間がかかるため、新聞を読めて作文を自由に書けるようになるには、20歳くらいまでは日本語学習を続ける必要があります。

やっぱり価値がある

このように、海外でのバイリンガル子育ては難しいというのが現実です。しかし、バイリンガルやバイカルチャーに育つことは子どもの視野や可能性を広げ、また、継承語を話せることは子どもが民族のプライドや自信を持つことに繋がります。バイリンガルになるメリットもいろいろな研究で明らかになりつつあります。じゅうぶん挑戦する価値はあるでしょう。

【参考】中島和子『完全改訂版 バイリンガル教育の方法』(2016年、アルク)