第三回「日本語教育推進法」を知っていますか?|「子育て&教育」カエデのトライリンガル子育てコラム

「日本語教育の推進に関する法律(日本語教育推進法)」が2019年6月に公布・施行されました。海外在住者でもこの法律を知っている人は少ないのではないでしょうか。しかしこの法律は、海外定住家庭の子どもの日本語教育に今後大きく影響するかもしれないのです。また、ワーキングホリデーや留学中の若者も、まだ見ぬ子どものためにも知っておくとよいかもしれません。

日本語教育推進法ができた経緯

 日本在留外国人数が283万人(2019年)にも上り、今の日本は労働力を多くの外国人に頼っています。にもかかわらず、その人たちが連れてくる子どもの言葉の問題は置き去りで、彼らは生まれた時に身に着けた母語を失い、しかも日本語もままならない二重苦の中に生きてきました。この法律は、日本に住む外国ルーツの子どもの母語保持と日本語教育向上の目的から端を発し、国内外を問わず日本語学習者の教育に日本政府と自治体及び企業が責任を負うと明記した画期的なものなのです。

 「第十九条 国は、海外に在留する邦人の子、海外に移住した邦人の子孫等に対する日本語教育の充実を図るため、これらの者に対する日本語教育を支援する体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。」

 この条項の「海外に移住した邦人の子孫等」は海外定住日本ルーツの子どもについて言及したものです。原案にはありませんでしたが、海外で日本語教育に関わる人たちの努力によって、彼らにも光が当たるようにと加えられました。現在海外永住者は51万人(2018年)います。しかし、学齢期の子どもの人数を日本政府は把握していません。国際結婚や移住等、任意で海外定住となった移住者の子どもたちは日本人でありながら、その存在に関して日本政府は今まで無関心でした。海外定住の子どもへの継承日本語教育は、すべて親の自助努力によって細々と続けられてきたのです。

 そして今回、日本語教育推進法制定にあたり、私たちはこの条項が絵に描いた餅にならないように注目していかなければなりません。

なぜ第2世代の日本語保持が大事なのか

 幼い頃に海外移住したり、または海外で生まれ育つ第2世代の子どもは、親から母語である日本語を継承しつつ、現地の言葉も使える高度なバイリンガルになる可能性が高い人たちです。戦前移住者の子孫や日本語を学ぶ外国人とも違う、両方の言語や文化を自分のものとして育つ真のグローバル人材です。彼らは成長後に日本で就職したり、日本を第2の故郷と感じて海外から日本に貢献できる優秀な人たちです。

 しかし、このようなグローバル人材は一朝一夕にはできません。使える日本語の獲得には、乳幼児期からの親の日本語での語りかけから始まり、日本語保育園に入れ、学齢期には現地校と週末の日本語学校や補習校両方の課題をこなし、そのような学習が延々20歳頃まで続くという、親子共にたいへんな努力を継続しなくてはなりません。しかし、親の頑張りだけでは力尽きてしまい、途中で日本語を諦めていく親子を私はたくさん見てきました。

 海外での継承語は第3世代には受け継がれにくいという性質があります。よって、第2世代に注目し彼らの日本語の保持伸長を日本政府がバックアップすれば、日本に貢献できる高度なバイリンガル・バイカルチャー人材の育成に繋がります。

日本政府支援の現状

 現在駐在者の子どもへの日本語学習サポートはあるものの、海外定住の子どもへの援助はほとんどありません。強いて言うならば、昔は駐在者の子どもに限られていた補習校に永住者の子どもも通えるようになったことでしょうか。補習校や日本人学校以外の草の根日本語学校には日本政府からの補助はなく、苦しい経営を強いられる中で子どもたちの日本語を守ってきました。

 第2世代の子どもの恒例行事というべき日本の小学校への体験入学も、市によっては拒否されたり歓迎されないことで返って日本嫌いになる子どもがいます。また、子どもが成長して日本へ行きたいと思っても、返還義務のない外国人向け日本留学奨学金は海外在住であっても2重国籍者は対象外です。その他にも、日本へ外国語指導助手等を招聘するJETプログラムも2重国籍者は参加できません。私の子どももカナダ人の父親が昔経験したJETプログラム参加の夢は叶いませんでした。海外定住の親子はこのようなナイナイづくしの中で日本語教育を頑張っているのです。

パブコメを6月の運用基本方針に反映!

 やはり海外定住者が声を上げていかないことには日本政府に聞いてもらえません。今年6月にこの法律の運用基本方針が決まります。関係者による会議もすでに始まっていて、3月~4月に政府パブリックコメントサイトで一般からの意見を募集するそうです。数は力。是非海外から意見を送り日本政府に聞いてもらいましょう!

【参考】
文化庁サイト「日本語教育の推進に関する法律について」/政府パブリックコメントサイト:https://www.e-gov.go.jp/publiccomment/
日本語ジャーナル: 「2020年の日本語教育界を展望する」