オンタリオの定番ドライブ:ストラットフォードとセント・ジェイコブス(Stratford & St. Jacobs)|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第69回

フェステイバル・シアターの正面入り口
フェステイバル・シアターの正面入り口

ストラットフォード・フェスティバルで『シカゴ』を

 1950年代に地元の経済を盛り上げようと、ヨーロッパから著名な演出家や役者に来てもらってシェークスピア劇を上演したのがストラットフォード・シェイクスピア・フェスティバルの始まりだ。それが次第にポピュラーになり、近年シェークスピア劇だけでなく、ブロードウェイ・ミュージカルや海外で人気を博したポピュラーな出し物を主に、各地のトップクラスの役者が劇に歌に踊りに観客を魅了する。

 シェークスピアに馴染みがなくても誰でも楽しめるこのお祭りは、4つの劇場(Festival Theatre, Avon Theatre, Tom Patterson TheatreとStudio Theatre)で開催される。昔、子供を預けて夫婦で『リア王』や『リチャード三世』を観に行ったが、今回は友人と1975年の初演以来いまだに続いているブロードウェイ・ミュージカル『シカゴ』に焦点を合わせた。入口でマスクのない人にはマスクが渡される。フェスティバル・シアターの円形舞台で踊る総勢のジャズダンスはコロナを吹き飛ばすほどの迫力。

フェステイバル・シアターの裏の公園を散歩する
フェステイバル・シアターの裏の公園を散歩する

 今シーズン(10月まで)は11の出し物があり切符も駐車券もオンラインで予約でき、トロントから便利な直行バスもある。詳細はstratfordfestival.caで。
写真で気がついたのは昔と違ってシェークスピア劇でもまたそれ以外でも色々なエスニックスターを起用し、現代社会に現実味のある公演にしていることだ。無差別社会が興行の世界でも当たり前になりつつあるのは歓迎したい。観賞の後、劇場裏の川沿いを白鳥と散歩する。

フェステイバル・シアターの独特の屋根は裏からよく見える
フェステイバル・シアターの独特の屋根は裏からよく見える

日帰り、それとも泊まる?

 トロントから1時間半程なので、2時の公演なら夕食を入れても日帰りでゆっくり戻れる。しかし近隣のセント・ジエイコブス・ファーマーズ・マーケット(St. Jacobs Farmers’ Market)に寄リたかったのでB&Bを予約した。セント・ジエイコブスにはこれといったレストランはないので夕食はストラットフォードですませる。幸い予約なしで入れたフレンチレストラン、「Café Bouffon」は大人のムードが漂い食事もこの日に相応しく美味でオススメの場所だ。沈む太陽と競争でスマホのGPSを頼りに田舎道を走ること40分。電池が2%に落ちた頃目に入ったB&Bのサインには感謝感激。日常と違う予期せぬことにでくわすのは一泊したときに起こる。

 朝食で同席だったのはトロントにいる息子を訪ねて毎年来るというブラジル人夫婦と結婚50周年のお祝いにきていたトロントのポルトガル人夫妻。カナダの話、旅行の話、買い物の話、このままずっと喋っていたらマーケットに行けないくらい楽しい歓談の時間が流れ、コロナ禍を抜けて人間らしい対話に皆心が和む。

セント・ジェイコブスのマーケット

セント・ジェイコブス・ファーマーズ・マーケット建物の一つ
セント・ジェイコブス・ファーマーズ・マーケット建物の一つ

 1975年に始まったファーマーズ・マーケットは1986年まではテント式だったのが、今では室内、屋外の両方に無数の店が並ぶ。地元の野菜をはじめ、メープルシロップ、ソーセージ、花やナイアガラ方面からきた果物、外国の小物、衣類、手作り商品、雑貨、スナック等々。メノナイトの店でシロップを一本買う。一泊した別の理由はこのマーケットが週3日しか営業せず、就業時間が短いことだ。火、木曜日は朝8時から午後3時まで。土曜日は7時から3時半までの営業。

マーケットで見た「熊の手」という面白い名前の砂糖菓子
マーケットで見た「熊の手」という面白い名前の砂糖菓子

 セント・ジェイコブスはプロテスタント系のメノナイトやアーミッシュ(MennoniteやAmish)の人口がカナダで最も多く、今でも車を使わず馬に引かせたバギーを交通手段としている。アーミッシュの厳しい規律から分岐したのがメノナイトでどちらに属していても個人の権利よりは集団の要求を優先し、教育(英語)は8年生までが基本で後は家の仕事を覚えさせるのが原則。服装もライフスタイルも超質素。日常会話はペンシルベニア系ドイツ語と言われるが外部の人間との接触を望まないので実際のことはわからない。

スナック売り場で黙々とドーナッツを揚げるメノナイトの女性
スナック売り場で黙々とドーナッツを揚げるメノナイトの女性

 テクノロジーに支えられる生活様式を何百年も拒否し続ける彼らの信仰の力をひしと感じずにはいられない。近年は教会が許可すればビジネスに必要な電話も使えるらしいが。マーケットでメノナイトの女性が黙々とドーナツを揚げていたのが印象深い。