また行ってみよう、モントリオール|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第67回

モントリオールの大人の結婚式

 中年の入口で娘が結婚に踏み切った。八ヶ月の日本滞在からカナダに戻った私はトロントで二週間自粛したのち、トロントのアイランド・エアポート(Billy Bishop Airport)からモントリオールへ向かう。スーツケースの中で彼女の振袖が20年ぶりの出番を待っていた。その甲斐あってレセプションでお色直しをした娘の振袖姿は実に綺麗だった、という最後の親バカもどっぷり体験することになる。

 彼らが予約した無宗教の公証人(Notary)役場の小綺麗な式場は親族と仲の良い地元の友達15人で満席。700ドルという日本ではあり得ない値段に驚く。安全を期してレセプションも30人に絞りモントリオールのオールド・ポート地区のシーフード・レストランで滞りなく終了。すべて娘がプランナーと進めていたので、私は運搬係で誘導されるままに行動するだけ。これで娘も私も新しい人生の分岐点を迎えたわけだ。式の後、新しい目で近場を歩いて見た。

モルソン一族のパワー

 15世紀にフランス国王の命を受け、「金」を求めてヨーロッパから初めてセントローレンス川に入ったフランスの探検家ジャック・カルティエ(Jacques Cartier 1491-1557)の名は有名だ。川に突き出るボードウォークにはそんな探検家だけでなくモントリオールに貢献した歴史的人物のスケッチが並ぶ。

 18歳で英国からモントリオールにやってきたジョン・モルソン(John Molson 1763 -1836)もその一人。彼を語らずしてモントリール、はたまたカナダの経済成長の歴史は語れないといっても過言ではない。ビールのみならず初めて大型貨物・乗客船舶(36隻)をセントローレンス川に就航させ、息子らと銀行(のちにBank of Montrealと合併)を設立し資産家、投資家としてカナダの経済を動かしてきた。我々が利用するホーム・リノベーションセンター(例:Home Depotなど)も実はモルソン一家が所有していたビジネスを売却してできた店なのでモルソンのDNAが流れているといえる。全国の小さな醸造所を合併しながら世界的地位を獲得し、モルソン・ビールは2014年に日本に初上陸している。

モントリオールの遺跡―楽しい博物館

ポワンタ・カリエール考古学歴史博物館と向かいのビルは地下でつながっている。
ポワンタ・カリエール考古学歴史博物館と向かいのビルは地下でつながっている。

 オールド・モントリオール(Vieux-Montréalヴュ・モンレアール)には市の遺跡がポワンタ・カリエール考古学歴史博物館(Pointe-à-
Callière)の地下に眠っている。モントリオールの設立は1642年(元の名はVille-Marie)、英国に占領される1760年までフランス一色文化だった。20世紀まで使われていた集合下水道の跡や、建物の基礎など綺麗に保存・補強されていて、屋外の雑踏や暑さを忘れてしばし異国の過去に潜り込み、現実から逃避する。ガラス張りの床下に広がる当時の集落の模型を見下ろすのはまさに自分がドローンになったかのよう。

20世紀まで使われていた集合下水道がピンクに照明されている。
20世紀まで使われていた集合下水道がピンクに照明されている。

 この博物館は道路を隔てた向かいのビルと地下でつながっており、先には海賊船やバイキング船が待っている。商船が海賊船と戦う場面に自分がいるような臨場感ある設備や音響効果は家族連れでなくとも楽しい。ただし、地下は迷路のように複雑なので迷子にならないように気をつけよう。

部屋(船)が海賊船に出会す装置や音響効果が楽しい。
部屋(船)が海賊船に出会す装置や音響効果が楽しい。

マウント・ロイヤル公園でハイキング 

マウント・ロイヤルのハイキングコースにトリリアムが咲き誇る。
マウント・ロイヤルのハイキングコースにトリリアムが咲き誇る。

 旅行したらいい空気を吸うのはマスト。ダウンタウンの西側に位置する高さ233mの山、マウント・ロイヤル(Parc du Mont-Royal モン・ロワイヤル)は公園になっていて全長約10㎞の中級向きトレイルやマウント・ロイヤル・クロスまでいく15㎞コースもある。

 山道には白いトリリアムが咲き誇り、北東の山頂には300年以上も前に洪水から救われたことを感謝して建立されたマウント・ロイヤル・クロスがある。現在の鋼鉄の十字架は158個のLED球が付いていて市のランドマークになっている。

300年以上も前、大洪水が治ったときに感謝して立てられたマウント・ロイヤルの十字架。
300年以上も前、大洪水が治ったときに感謝して立てられたマウント・ロイヤルの十字架。

 シャレー広場(Chalet du Mont-Royal)ではMont-RoyalがMontrealの名の由来であることを記す青銅の本が象徴的だ。冬はスキー、スケート、トボガンで真っ白な公園に人たちの歓声が上がり(2020年3月号参照)四季を通して住民に愛される憩いの場所だ。

 マウント・ロイヤル公園にいくには地下鉄やバスが便利。二日間有効な観光バスで展望台までいき、そこから森道へ入る方法もある。

公園内のシャレーからモントリオールを一望する。数カ所ある展望台でここが一番広い。
公園内のシャレーからモントリオールを一望する。数カ所ある展望台でここが一番広い。