カナダ移民法解説『コモンローのダブルスタンダード』

 カナダ移民法ではコモンローパートナーとは、〝少なくとも1年以上、夫婦同然の関係で同居しているパートナー〟と定義されている。州の家族法など別の法律でそれと異なる定義もあるが、イミグレーションやボーダーサービスのオフィサーが運用する移民法の下では、この定義が唯一の拠り所となる。

 先日もCBCのニュースで、トレイラーで一緒に生活するカナダ人とアメリカ人のカップルがカナダ・USボーダーで留められ、通常コモンロー関係の証明に使われる共同リース契約などを持っていなかったという理由でコモンロー関係と認められず、アメリカ人の方はカナダ入国を拒否されたと報じられた(COVID-19による渡航規制で、カナダ人か永住権保有者の家族でないと入国を許可されない)。その後、弁護士が250ページにわたる二人の関係を証明する資料を提出し、ようやく入国を許可されたということである。

 移民申請の際にオフィサーが用いるマニュアルにも、コモンローパートナーはお試し期間のように一緒に住み始めたカップルではなく、二人の間に婚姻したカップルと同等のコミットメントがなくてはならないと明記されている。

 パートナー以外と性的交渉がないこと、精神的にも金銭的にも相互依存関係にあり、社会的(例えば、お互いの家族や職場やコミュニティー)にもその関係を認知されていることが、コモンロー関係であることのファクターとして挙げられている。

 そのため、ファミリークラスのコモンローパートナーの申請では、それを証明するために大量の証明書類を添付し、二人の関係が移民目的で作られたものでなく純粋であること(中国人カップルの80%くらいが偽装の疑いがあるとして却下された時期もあった)、二人が同じ住所に最低1年間連続して居住していたことを証明する必要がある。

 それくらい大変なのだから、政府に提出するビザ申請書類に人は安易にコモンローパートナーがいるとは宣言しない。大体、定義自体が曖昧で夫婦の同然の関係って何なんだ?ということである。

 例えば一緒に住み始めて9か月はそれほど本気ではなく、1年に達する3か月前に本気になったカップル、お互い独身のまま緩く繋がっていて、共同リースもジョイントアカウントもない同居中のカップルはコモンローと言えるのか。婚約したが、既に一年以上一緒に住んでいるフィアンセもコモンローを宣言しなくてはいけないのか。

 本人がコモンローと言いたければ言えばいいし、そこに政府が関与してコモンローには少し足りないとか、1年以上一緒に住んでいるのにコモンローを宣言しないのはミスリプレゼンテーション(虚偽申請)に当たるなどと指摘するのは、余計なお世話である。

 最近弊社が担当した複数のファミリークラスのケースで、過去の個人移民申請の際に既に1年以上一緒に住んでいたのに、そのことを当時移民局に伝えなかったので、ファミリークラスでスポンサーできる家族の一員には当たらない(Undeclared Family Member)かもしれないなどと言いがかりをつけられた。移民申請の際に家族の一員として申告しなかったメンバーは、後からスポンサーできないという移民法117条9(d)項の適用である。

 もちろん、移民申請の際に配偶者やコモンローパートナーを加えるとExpress Entryのポイントが下がる(これもおかしな話だが)という理由で、意図的に申請書から除外したのであれば自業自得であり、後出しで実はコモンローパートナーがいたというのが通用しないのは理解できる。

 しかしながら、あれだけコモンロー関係の証明にうるさいオフィサーが、手の平を返したように、1年一緒に住んでいただけで何の証明もできない申請者をコモンローと断定し、不当に言いがかりをつけて審査を遅らせたり、申請却下をちらつかせたり、ミスリプレゼンテーションの疑いをかけて申請者を心理的に追い込むのは、オフィサーの裁量権の濫用であり許されるべきではない。
調べてみるとここ数年、申告しなかったコモンローパートナーをめぐって裁判所で争われるケースが増えているようだが、どういうわけかほとんどが申請者側の敗訴になっている。このコモンローをめぐる政府のダブルスタンダードにどうして誰も異議を唱えないのだろうか。訴訟のケースが減ることを懸念して、弁護士協会があえて声を上げないのは理解できるが。

 いずれにしても同居を始めて1年以上経過し、将来スポンサーするかもしれない相手がいたら、個人移民申請中のどの段階においても〝コモンローに当たるかもしれない人がいる〟ことを宣言した方が安全だ。