【第34回】カナダドルと日本円~国際離婚にまつわる換金レートのお話|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

 
 昨今の円安は、カナダで暮らす日本人にはおおむね歓迎されているようです。
 例えば、夏休みの日本への一時帰国は、以前より「お値打ち感」があります。コロナ禍前の2019年の夏休みには、100ドルで8千円分の買い物しかできなかったのに、2022年の夏は1万5百円分の買い物ができます。一時帰国する日本人には円安はありがたいですね。

 ところで、カナダで国際離婚を考えるとき、この換金レートはとても重要なポイントになります。そこで今回は「国際離婚と換金レート」についてスペシャリスト認定弁護士のケン·ネイソンズに聞いてみました。

円安と日加間の送金

 円安が日本へ一時帰国する人々に歓迎される中、この傾向は、これからカナダへ移住する人を始め、まとまった額の日本円をカナダに送金しようとする人にとっては、手痛い事態です。

 例えば、国際結婚を機に日本で蓄えた円をカナダに送金しようとする場合、あまりの円安に躊躇するかもしれません。
 一方、カナダから日本へ引っ越そうと考えている人々にとって、円安は嬉しい状況です。特に持ち家を売却して日本へ移住しよう(戻ろう)と思っているなら、千載一遇のチャンスかもしれません。

 国際結婚など、日加の国境をまたいで人生を送る人々にとって、「二か国間の換金レートが生活設計に関わるものだ」と実感させられたのが、昨今の急激な円安です。

婚姻資産の計算法

 カナダ、オンタリオ州では、婚姻の解消にあたりファイナンシャル·ステートメントを作成します。これによって「結婚前の資産」と「別離を決めた日の資産」を完全開示し、夫婦それぞれの婚姻資産を割り出します。

 婚姻資産は、「別離を決めた日の資産」から「結婚前の資産」を差し引いて計算します。
 この婚姻資産の合計を、夫婦が等分に分けることになります。これが、資産の多い配偶者から資産の少ない配偶者への「財産分与」なのです。
 
 以上の法律を踏まえ、換金レートが国際離婚に与える影響を具体的に紹介しましょう。

結婚前の資産残高の証明

 日本人がカナダで結婚生活を送る場合、結婚前の資産は日本円であることが一般的です。ですから、結婚した年月日の資産残高をその時点のレートでカナダドルに換算した値を開示しなければなりません。これはその資産が日本から動いていない場合も同じです。そして、このカナダドル建ての結婚前の資産は、婚姻資産から除かれます。

 つまり、結婚前の資産を計算する場合、円高はメリットなのです。

 10年以上の長い結婚を解消する場合、結婚前の資産残高を探すことは至難の技です。過去の残高証明を請求しても銀行には過去7~10年程度しか記録が残っていません。したがって、結婚前の貯金通帳や日本からカナダへの送金記録などは大切に保存しておきたいものです。

 これに加えて、結婚直前の換金レートがわかる文書も保存したいです。カナダの中央銀行では過去7年分の換金レートしか入手できないため、過去のレート探しに四苦八苦することになります。

みなし別居

 一方、「別離を決めた日」とは「婚姻関係が存在しなくなった日」を指します。たとえ同じ住所に住んでいても、「寝室が別」「食事を共にしない」「たがいの実家との行き来がない」など、婚姻関係の崩壊とみなされる状況の存在で「別離を決めた日」を定めます。ここではこれを「みなし別居」と呼びます。

 この「みなし別居」の年月日が夫婦間で争われることが少なくありません。「別離を決めた日」によって財産分与が大きく増減するからです。
 多くの場合、不動産の高騰がその理由です。例えば、2019年頃の住宅の価格と2021年頃コロナ禍真っ只中の価格では、少なくとも20~30万ドル(2~3千万円)の差が生まれています。夫婦が暮らしていた婚姻自宅が、どちらか一方の単独名義であった場合、この傾向が顕著です。

 そして、婚姻中に増加した日本の資産にも「別離を決めた日」の換金レートが当てられます。このとき、円安は婚姻資産の値の高い配偶者にとってプラスとなる一方、婚姻資産の低い配偶者にはカナダドル建ての財産分与の値が目減りするというマイナスに働きます。

 ですから、換金レートの状況を考慮しつつ「みなし別居」の年月日を主張する可能性も否めず、夫婦間の争いにつながる可能性があります。

 いかがでしょう。円安は、国際結婚の複雑さを増幅させたと感じるこの頃です。

 このように、さらに複雑になった国際離婚においては、弁護士のサポートが重要です。ネイソンズ·シーゲル弁護士事務所は、国際離婚に関する問題のすべてを日本語でサポートします。

 「親権とペレンティング」をはじめとする家族の問題は、家族法を専門とする2名のエキスパート認定弁護士と日本人有資格者(オンタリオ州公認パラリーガル)が在籍するネイソンズ・シーゲル弁護士事務所にお任せください。

 リモート相談は、次の手順で行っております。

  1. hnoguchi@nathenssiegel.com(野口)宛に相談内容をお知らせください。
  2. 当事者おふたりのフルネームと相談者の写真付きIDをお願いします。
  3. いただいたフルネームから顧客名簿を検索し、相手方が過去に当事務所の顧客でなかったことを確認します(弁護士協会の規定により、相手方が過去の顧客であった場合には相談に応じられません)。
  4. オンライン・ミーティングの日時候補をお知らせします。
  5. 面談日時をお選びいただいた後、オンライン・ミーティング(Zoom)リンクをお送りします。
  6. 初回面談への野口の同席は無料です。面談時に野口から今後の流れを含む詳細を説明します。

(注1)情報提供のための一例です。それぞれの状況や他の条件によって異なる結果となりますのでご注意ください。

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。