【第6回】カナダの養育費:ガイドラインと養育経費|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

【第6回】カナダの養育費:ガイドラインと養育経費|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

 離婚から連想する言葉をひとつ挙げてください」という問いに五人の母親が答えてくれました。

 「養育費」「養育費」「養育費」「養育費」…「どろぬま」
 …五人目の方は、さずがに「養育費」とは言いにくかったのでしょうか?

 カナダでは、1997年に制定された養育費ガイドラインで子どもの経済的権利が守られています。そこでこの養育費ガイドラインについてエキスパート弁護士、ケン・ネイソンズに詳しく聞いてみました。

ガイドラインの目的

 両親の離婚後、「子が継続的な経済的サポートを受ける」ことをより充実させるために設けられたのが、養育費ガイドラインです。養育費の金額を定めておくことで養育費をめぐる争いを軽減することがそのねらいです。

 裁判に委ねることの多かった養育費の金額の基準を作ることで、協議離婚の可能性を高めることもその大きな目的だとされています。

年収と養育費

 
 養育費は「養育費を支払う親の年収」と「子どもの数」によって算出されます。たとえば、小学生の子ども二人が母親と暮らしている場合、年収6万ドルの父親が母親に支払う養育費は月915ドルです。

 国が作成したこのガイドラインを基に、それぞれの州が独自のガイドラインを制定しており、養育費の基準額は、オンラインで簡単に入手できます。しかし、それぞれのケースによって養育費の額は細かく調整されますので、必ず弁護士に相談することをお勧めします。

養育経費ってなに?

 ガイドラインによって確立された養育費の額と比べ、曖昧さの残るものに「養育経費」があります。

 養育経費とは、国の養育費ガイドラインのセクション7に含められている次の費用です。
 
(a)親の就業などで子どもの保育が必要な場合のチャイルドケア費用

(b)保険でまかなえない医療費

(c)カウンセリングやスピーチセラピーなどのセラピスト代、処方薬、めがねや補聴器などの医療器具などの費用

(d)子どものニーズに沿った教育費(日本人の子どもが日本語学校に通う学費などがこれに当たります)

(e)大学の学費(高校卒業後の正式な学業)

(f)課外活動 の特別費用
 
 このうち、(f)に関しては「何をもって特別とするか」の判断が分かれています。

非凡で類いまれな才能を培う費用?


 
 本来、「課外活動の特別費用」は「ある活動に対しその子どもにずば抜けた才能があり、その才能を伸ばすための費用」であったようです。ところがスイミングやピアノレッスン、さらにアイスホッケーなどチームスポーツへの参加などでは、その子に「類まれな才能があるかどうか」の判断は難しく、父親と母親の間で意見が分かれることも想像できるでしょう。

 高額なハイレベルのチームスポーツへ参加は、問題なく特別費用と見なされますが、一般の課外活動はいったいどの程度までが特別費用なのでしょう。次は「裁判官が課外活動費用を養育経費と認めるかどうか」の要因です。

①養育費はいくらか?

 養育費が相当高額である場合は、課外活動を特別費用と認めない傾向。

②課外活動にいくつ参加しているか?

 同じ子どもが複数の課外活動に参加している場合、その全てを特別費用と認めるのはむずかしい。

③両親が同居していたころから参加していた活動か?

 離婚後に子どもが新しく始める課外活動は問題視される場合もある。

④子どもが必要とする課外活動なのか?

 例えば「肥満対策のために水泳を始める」など特別な理由がある場合は、新しい課外活動でも特別費用と認められる可能性が高い。

⑤非凡で類い稀な才能があるかどうか?

 新しい課外活動であっても、実際にその子が「非凡で類いまれな才能」を示している場合は特別費用と認める。

 しかし、裁判官の裁量やそれぞれのケースの背景により、これらの要因と異なる判決が下される場合もあります。残念ながら、養育費ガイドラインのセクション7(f)は「ガイドライン」としての本分を果たしていないことになりますね。
 たいへん複雑な養育経費、子どもの権利を守るには、経験豊かなエスパート弁護士のアドバイスが強い味方となります。

【参考】 養育費基本額一覧表https://www.justice.gc.ca/eng/fl-df/child-enfant/fcsg-lfpae/2017/pdf/ona.pdf
オンライン養育費計算https://www.justice.gc.ca/eng/fl-df/child-enfant/2017/look-rech.asp
MY SUPPORT CALCULATORhttps://www.mysupportcalculator.ca/

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。