カナダの闇|特集「カナダの光と闇」

 「住みたい国ランキング」「住みやすい都市」で常に上位にあるカナダとその主要都市。しかし、そんなカナダでもいいことばかりではない。今回は政治・歴史・教育など幅広いジャンルと視点から「闇」に迫ってみたい。

01
先住民の人権を奪ったレジデンシャル・スクール

 先住民の子供たちを強制的に学校に送り、西洋の教育を受けさせ、先住民としての文化を奪い、さらには虐待の現場だったとして今でも語り継がれているレジデンシャル・スクール。19世紀後半から20世紀後半まで続き、その期間におよそ15万人もの子供たちがレジデンシャル・スクールに通わされたのだとか。

 子供たちは学校に入るや否や家族と離れ離れになり、自身の文化や言語とも関係を断つことに。性的虐待などの被害に遭い、命を落とした子供は3000人以上にのぼるという。

02
ケベックにおける奴隷制度

 奴隷制度とはあまり関連づけられることが少ないカナダだが、現地のメディアによるとケベック州では1629年から1833年までの間、およそ4000人もの奴隷がいたという。その大半はケベック・シティの裕福な家庭により雇われていたそうだ。「奴隷制度」というとアメリカのイメージが強いが、カナダでも行われていたことを知っている人は少ないのではないか。モントリオールでは州の奴隷制度の歴史やその当時の人々について学べる箇所もいくつかある。

03
オンタリオ州の医療機関での待ち時間

 オンタリオ州の病院やクリニックでの待ち時間が大きな問題となっている。州の半分の医療機関は常にキャパオーバーで、中には廊下や会議室などで治療されている患者もいるというから衝撃だ。

 また、去年の6月には救急処置室での待ち時間が平均で16.3時間を記録。一般の患者の待ち時間は平均で1.6時間だったという。この理由として、ベッドをはじめとした備品の少なさ、さらには患者が医療費を負担しなくていいことが挙げられている。

04
かつて連続殺人事件頻出地域だったロンドン市

 オンタリオ州のロンドンがかつて、連続殺人事件が頻繁に起こる都市として悪名高かったことはあまり知られていないのではないか。1959年から1984年までの25年間、32件もの殺人事件が起き、これらの事件の被害者は全て女性や子どもだったそうだ。

 人口20万の都市に連続殺人犯が6人ほどいたのではないかと推測されていて、この割合は世界中を見てもあまりないほどの高い割合だという。

05
バンクーバーの渋滞は北米でワースト3

 バンクーバーをはじめとするカナダ主要都市の渋滞が北米の中でもトップクラスであることがわかった。57か国の416都市を比べたランキングによると、バンクーバーの渋滞度は北米第3位。「渋滞」のイメージが強いニューヨーク(第4位)をも上回ることになる。

 ラッシュアワーによる時間ロスは30分あたり約20分、一年間で149時間という莫大な時間になる。ちなみにトップ2はメキシコシティ(1位)とロサンゼルス(2位)だった。

06
モントリオールにおける先住民女性失踪・殺害事件

Protesters for Missing and Murdered Indigenous Women’s campaign Photo by Howl Arts Collective
Protesters for Missing and Murdered Indigenous Women’s campaign Photo by Howl Arts Collective

 ニュースで取り上げられることは少ないものの、大きな問題となっているモントリオールでの先住民女性の失踪や殺害事件の数々。2月14日には、被害に遭った先住民女性のための通夜が行われた。

 2019年の夏には、これらの事件に対する政府の意識改革を訴えてきたNational Inquiryが、政府をはじめとする機関に対してレポートを提出。このレポートには、「先住民女性の失踪や殺害を撲滅させるために必要な段階」が示されているという。

07
「通勤に最悪」と悪名高いトロント

Photo by Diego Torres Silvestre
Photo by Diego Torres Silvestre

 「住みやすい都市」の上位に常に入るトロントだが、通勤においては同じことが言えないようだ。あるイギリスの企業の調べによると、トロントで通勤に要する時間は「北米で最悪」、「世界でワースト6位」とかなりの低評価。

 また、トロントにおける電車やバスの待ち時間は平均して14分。通勤時間の平均は1時間36分だという。さらに、一年間で渋滞の待ち時間に費やすのが47時間。この数字からトロントの道路状況が窺えるのではないか。

08
先住民の土地を奪いつつあるパイプライン

Photo by Jason Woodhead
Photo by Jason Woodhead

 今年になって特に注目を浴び始めたのが、先住民の領土問題。カナダ国内で多くの議論を醸し出している「トランス・マウンテン・パイプライン」も例外ではないが、今回の焦点は「コースタル・ガスリンク・パイプライン」と呼ばれる、ブリティッシュ・コロンビア州に建設予定の670キロにも及ぶパイプラインだ。

 建設にあたり、先住民Wet’suwet’en(ウェットスウェテン)の土地が奪われていると、現地のみならず、トロントでも抗議デモが行われている。

09
企業による対策不足プラスチックゴミ問題

 カナダの大手スーパーによるプラスチックゴミが大きな問題となっている。CBCの調べによれば、カナダ国内に展開しているロブローズとソービーズはどちらもプラスチック削減に対して目標を掲げていないのだとか。

 一方で、イギリスでは大手のスーパーにおいて使い捨てプラスチックの使用を削減する運動が広まっているそうだ。日本よりも環境問題に敏感に見えるカナダだが、使用されているプラスチックが大幅に削減されるにはまだもう少し時間がかかるのかもしれない。

10
後を絶たないカナダの大学生による自殺

 カナダの大学における学生の自殺が後を絶たない。オタワ大学では、今年2月に学生が自殺。2019年1月以来5人目となる。トロント大学でも2019年の11月に学生が自殺し、2年以内で4件目となった

 これを受け、オタワ大学の学長は会見を行った。大学内のメンタルヘルスへの対応を改善するのが急務だとした。どの大学においても、これからの対応が注目される。

11
先住民女性に特に多い家庭内暴力

 マニトバ州における先住民女性に対する家庭内暴力が大きな問題として浮上している。CBCによると、2018年に家庭内暴力により命を奪われた12人のうち、5人が先住民だったそうだ。

 さらに、先住民の女性は先住民でない女性よりも家庭内暴力の被害に遭う確率が高く、1980年から2012年の間に殺害された先住民女性1017人のうち実に7割が自分の家庭内で命を落としたという。

12
家庭内暴力の被害者が直面する現状

 先住民女性のみならず、家庭内暴力による被害者のための助けが少ないことも問題視されている。中でも、被害者の女性や子どもたちのための「シェルター」と呼ばれる施設は大きく不足していて、例えばケベック州では一ヶ月のうちに入所を拒否されるケースは1万9000回にものぼるという。

 また、シェルターに受け入れられたとしても、滞在できる期間は一ヶ月から三ヶ月ととても限られており、被害者の自立への道のりは険しいのが現状だ。この問題はケベック州のみならずカナダ全土で起きているという。

13
トロントにおける銃撃事件増加

Photo by Kim Siever
Photo by Kim Siever

 2019年においてトロントで発生した銃撃事件の数は統計開始以来、最高記録を更新。件数は490件、被害に遭った人は760人に上ったそうだ。NBAで優勝を飾ったラプターズのパレードにおいても銃撃があったことは記憶に新しいだろう。その際にも複数人が撃たれた。これらの銃撃に使われた銃のほとんどはアメリカから違法に輸入されたものだったという。

特集記事:https://torja.ca/whiteowl-2004/

14
批判の末ついに廃止か?コンバージョン・セラピー

 性的少数者を異性愛者やシスジェンダー(生まれ持った性別と性同一性が一致すること)に「治す」「治療法」として行われてきたコンバージョン・セラピーだが、その考え方ややり方に対し多くの反対の声が上がっている。

 中には電流ショックを用いた過激な方法を行うところもあるのだとか。しかし、このコンバージョン・セラピーはカナダ全土において廃止へと向かっている。これからの政府の動きに注目だ。

15
想像以上に広まっているカナダのホームレス事情

Photo by David Porter
Photo by David Porter

 カナダ人の約23万5000人がホームレスだというから驚きだ。その中には施設で暮らしている人もいれば、施設にさえ入ることができず、道端で夜を明かす人も少なくない。施設に入るために待つ期間は10年にも及ぶという。

 中でも、トロントのジョン・トーリー市長はホームレス問題に対する関心の無さに多くの活動家から批判を浴びている。一方、バンクーバーでは簡易住居などによりこの課題に直面。トロントがこれからどのような動きを見せるのか、注目だ。

16
止まらない不動産バブルによる家賃上昇

Photo by Loozrboy
Photo by Loozrboy

 カナダの主要都市における不動産バブルが止まらない。中でも賃貸の値段が上昇し続け、調べによると、トロントにおけるワンベッドルームの家賃の平均はなんと2300ドル。カナダ国内の家賃としては最高額を記録した。

 2位に続くのはバンクーバーで、同じ間取りで2200ドル。この価格を見れば、ホームレスの人数が増えていることや、トロント中心から郊外に人口が移動していることにも納得が行く。

17
多くの大学生の命綱OSAP支給額減額

 フォード首相が就任して以来、OSAPの名で知られるオンタリオ州の学生へのローンの削減が学生やその家族にとって大きな懸念となっている。

 このローンは、家庭の収入があまり多くない学生にとって大学に通うことを可能にしていた資金源だったものの、フォード首相が就任と同時にOSAPに充てる金額を減額。これにより、授業を休み、収入を得るべく仕事をしなければ大学に通えなくなる状況に陥る学生が急増。これに対する抗議活動も多く見られた。

18
乱暴な運転に注意!トロントの危険ドライバー

 トロントにおける運転手の乱暴さが問題になっている。今に始まったことではないものの、2008年の統計以来、自動車事故によるケガ人や死亡した人の件数は一向に減りそうにない。

 また、2019年の夏に実施された自転車優先の試みの際にも、一週間のうちになんと1600枚もの反則切符が切られ、その中のおよそ800件が「特に危険な運転」として分類されたそうだ。運転者としても、歩行者としても、道路を利用する際には気を付けたい。

19
死亡者急増オピオイド・クライシス

Photo by K-State Research and Extension
Photo by K-State Research and Extension

 オピオイドは麻薬製鎮痛薬であり、中にはモルヒネやヘロインが含まれる。合法的に鎮痛剤として処方されることはある一方で、違法で取引されているものもあるオピオイド。

 過剰摂取やオピオイドに関連した死因により、命を落としている人はカナダだけで2016年1月から2019年1月の間で13900人もいたという。この問題に対し、多くの関係者はカナダ政府に対してオピオイドの合法化やオピオイドの使用法に関する知識を広めるなど、措置を求めている。