カナダ社会・時事問題 2021年 ニュース振り返り|特集「12月といえば。」

カナダ社会・時事問題 2021年 ニュース振り返り|特集「12月といえば。」

 新型コロナウイルスのニュースで始まり、新変異ウイルス・オミクロン株の話題で終わりそうな2021年。もちろん、コロナ関連以外にもカナダではさまざまなニュースがありました。社会・時事ニュースにスポットを当て、2021年を振り返りたいと思います。

カナダ「国家ブランド」
ランキングで2位。日本は3位。

 2021年アンホルト-イプソス 国家ブランド指数(2021 Anholt-Ipsos Nation Brands Index)ランキングによると過去数年間3位にランクインしていたカナダは今年初めて2位に浮上した。要因としては「ガバナンス」、「人材」、「移民と投資」の各指標で1位を獲得したほか、「輸出」、「観光」、「文化」の要素で高いスコアを獲得したことが挙げられている。

 このランキングは世界50ケ国の市場イメージを30項目に及ぶ評価要因を「輸出」「統治」「文化」「人々」「観光」「移住/投資」の6分野に分けて評価したもので、日本は昨年から1ランク上がり2018年以来初めてトップ3に入った。「輸出」「観光」「文化」「人」に対する好意的な評価が理由のようだ。

 5年連続でトップの座をキープしている強国ドイツは「輸出」、「移民と投資」、「ガバナンス」、「文化」のカテゴリーで強さを出しており、ドイツ企業への投資の魅力、ドイツ人の雇用適性、ドイツ政府の貧困対策、スポーツの素晴らしさ、神聖ローマ帝国時代からの豊かな歴史などが魅力として挙げられている。

合法化から3年、
カナディアンと大麻の「今」
1年を振り返りながら

 大麻がカナダで合法化されてから3年たったいま、同策が世間に及ぼす影響がはっきりと目にみえてきた。メリットで挙げられる点といえば、数十億ドル規模の産業、新しい雇用、税収が生まれたことだ。カナダ統計局の売上高によると、2021年上半期の乾燥大麻への支出は約13億カナダドルと示しており、大麻ビジネスが持ち来すエコノミーへの影響は言うまでもない。

 国内最大の大麻マーケットと呼ばれるオンタリオ州では今年9月に国公認の大麻ショップが1000店舗に達したと話題になった。オンタリオ州南部の小都市ピーターボローでは大麻ショップの数が大手コーヒーチェーン「ティムホートンズ」の数を越す勢いだとも言われている。

 また、合法化により、若者の間での大麻関連の有罪判決は劇的に少なくなっているという。2018年当時、大麻合法化につき、ジャスティン・トルドー首相によって発表された「大麻法」には若者の大麻へのアクセスを防ぐのに必要な年齢制限や大麻の宣伝の制限などが措置されている。

 一方で大麻がマーケットに広がることで懸念が強まるとされていた大麻精神病や、大麻使用下での運転などは今のところはっきりとした十分な調査結果は出ていないとし専門家らは細かく調査を継続していき、世間に発表していく必要があるとしている。

異常気象カナダを襲う

 日本でも近年盛んにみられる異常気象による被害。自然が豊かなカナダでは今年、異常気象による被害が目立った。6月にはカナダ最西部に位置するブリティッシュ・コロンビア州で2日間にわたってカナダ最高気温の全国記録を更新したのち、過去最高の49・6度を記録した。これは、1937年にサスカチュワン州で観測された45度を上回る。ちなみに、日本の過去最高気温は静岡県浜松市で観測された41・1度というからその強烈な熱波(ヒートドーム)の恐ろしさがお分かりになるだろう。

 そして同州では山火事が発生し集落の大部分が消滅した。オックスフォード大学の気候学者フリーデリケ・オットー氏は声明の中で、今までの過去最高気温記録が45度で今回49度超えで記録を破ったことに対して、最高気温記録を4度、5度という数字で上塗りすることは一般的に想定されておらず、前例のないことだと述べている。

 さらにそれから5ヶ月経った11月には2日間に及ぶ集中豪雨が同州を襲い、高速道路の一部で土砂崩れが発生し、一時50人の子どもを含むおよそ275人が立ち往生となった。

 また、広範囲で洪水を起こし、各地で避難命令が出るなど住民数千人が帰宅できない状況に陥った。国内最大の港であるバンクーバー港発着の鉄道貨物輸送は全面的に中止され、自動車や生活必需品などさまざまな物資の不足が起きた。

 こうした異常気象に専門家は「これはもはや千年に一度のイベントではなく、1年に1回のイベント」だとし、「こういった極端な気象の変化は激化し、より一般的になることを想定して私たちは、対応力と回復力を上げる可能性がある」と述べている。

カナダの団体が考案したSOSハンドサイン
16歳の少女を誘拐犯から救う

 11月初旬、2日間行方不明とされていたアメリカ・ノースキャロライナ州の16歳の少女は同乗している犯人の隙を見て使用した「ハンドサイン」により救出され、犯人逮捕に至った。

 声が出せない状況で助けを求める「ハンドサイン」は2020年コロナ禍により自宅に隔離される時間が増え、世界的な家庭内暴力増加の中でビデオ通話等で使えるようにとカナダの団体「Canadian Women’s Foundation」によって考案された。片手の親指をまげて、全ての指を握るという2つのシンプルな動作は「#SignalForHelp」キャンペーンと名付けられ、ツイッターやティックトックなどのソーシャルメディアで若者を中心に広まった。

 少女の救出に関わった警察はこのハンドサインについて知らなかったと認めているものの、世界的にこのハンドサインが認知されれば苦しんでいる人の命を救うことが出来る素晴らしいツールだと言及した。このサインを考案したカナダの団体「Canadian Women’s Foundation」とトロントの広告代理店は初期段階でハンドサインを誰もが知る有名なものとした方がいいのか、犯人に気づかれないような少数が知るシークレットサインとした方がいいのか思索にふけたというが今回の件で賞賛されるものとなった。

カナダでも大人気の衝撃作「イカゲーム」

 9月17日から世界的にストリーミングが開始されたNetflixオリジナルシリーズ「イカゲーム」(英題: Squid Game)。大金の借金を抱える人々が集まり、賞金456億ウォンを目指して、「だるまさんがころんだ」や「綱引き」といった懐かしいゲームを彷彿させる「命懸けのサバイバルゲーム」に挑むデスゲーム作品。制作陣も「当初ここまで大きくなるとは想像もしていなかった」と驚きを見せるほどの人気ぶりで配信開始から4週間で世界1億4200万世帯が視聴し、Netflix最大のヒット作となった。

 カナダでもその人気は凄まじく、同作品でチャレンジのひとつとしてでてきた韓国の甘いお菓子「ダルゴナ」(カルメ焼き)は各地のコリアタウンを中心に販売する店舗数が増えた。トロントのフィットネスジムでは6週間に及ぶ、イカゲームで出てきたゲームさながらのチャレンジで身体が鍛えられるプログラムが作成されるなど関連ビジネスが続々と登場した。

 一方、ケベック州では同作品の激しいゲーム内容が子供たちの間で模して遊ばれるなど悪影響を及ぼしているという懸念が生じ、モントリオールの心理学者Nadia Gagnier氏は、親は子供に同作品を見させないようにするだけではなく、座って話す機会を設けるべきだと声明をあげた。

北欧のヴァイキング、
今から「千年前」に北米で定住していたことが判明

 8世紀末から11世紀にかけて、デンマーク・スカンジナビア半島を居住地として、ヨーロッパ各地に進出活躍した歴史的集団「ヴァイキング」。今からちょうど千年前に、カナダ・ニューファンドランド島に定住していたとする研究結果が学術誌「ネイチャー」に掲載された。

 1492年のコロンブス、アメリカ大陸発見よりも前に欧州人がアメリカ大陸に渡っていたことは長く知られていたが、正確な年代が示されたのは今回が初めてだという。 オランダのブローニンゲン大学やカナダ国立公園局などの科学チームは、北欧人たちが入植したニューファンドランド島のランス・オ・メドー集落で使用されていた3つの木片の年輪を放射性炭素年代測定法(対象物に含まれる放射性炭素同位体の残留濃度を測定する技術)を用いて分析。太陽嵐によって生成された放射性炭素を調べた結果、木が伐採されたのが1021年だと特定できた。

 カナダの最東端に位置する広大なニューファンドランド島。ランス・オ・メドー集落遺跡は、ヴァイキングが北米に築いた最初で唯一の遺跡でユネスコ(国連教育科学文化機関)世界遺産にも登録されている。その他、大自然が広がるこの島では地中深くマントルに眠っていたテーブル状の台地が見られたり、地球の年輪を詳しく見ることができるグリーンポイントなど、この島ならではの体験ができると近年注目を浴びてきている。

東京オリンピック・パラリンピック

 新型コロナウィルスの影響で一年先延ばしされ今年開演となった東京オリンピック2020。 7月23日から8月8日まで、史上最多の33競技339種目が行われ、カナダは合計24個のメダルを獲得した。

 今回、銀メダル1個、銅メダル2個と3つのメダルを獲得した女子水泳のペニー・オレクシアク選手は2016年大会と合わせ、合計7つのメダルを獲得したことになり、カナダ史上過去最多オリンピックメダル獲得選手となった。2012年ロンドン、16年リオデジャネイロと2大会連続銅メダルに終わったカナダ女子サッカーチームは、今大会、延長PK戦の末スウェーデンを下し、金メダルに輝くセンセーショナルな瞬間をオリンピック史に刻んだ。そして、太もも裏のけがなどで低迷した時期が長かった陸上男子アンドレ・ドグラス選手は200メートル決勝で5年ぶりに自己記録を更新し、念願の王者となった。

 また、8月24日から9月5日まで開催された東京パラリンピックでは、カナダは21個のメダルと共に幕を閉じた。女子水泳のオレリ・リバール選手は今大会でカナダのトップアスリートに輝き金メダル2個、銀メダル1個、銅メダル2個の合計5つのメダルとともに帰国した。46歳のパラサイクリスト、トリステン・シェルノブ選手はチームカナダ最年長で表彰台に上がったメンバーであるが、今大会で引退することを発表し世間を驚かせた。「引退することはエモーショナルなことだが、残りの時間を家族に貢献するなど、人生の次の章に進むことはとてもわくわくする」とインタビューで答えている。

 2020年の開催が後ろ倒しになり、この1年と数ヶ月の間、情報の不確実性や、コロナ禍でのトレーニングの制限など、精神的にも体力的にも削られていたアスリート選手らだったが、情熱、回復力と献身的な姿勢でオリンピック、パラリンピックに心血を注いだ。

カナダ人俳優マーベル主演へ

 トロントが舞台の大人気ドラマ「キムさんのコンビニ」(原題:Kim’s Convenience)で馴染みのあるカナダ人俳優シム・リウ。

 今年3月に同作品シリーズの突然の中止発表がファンを悲しませた直後、マーベルのスーパーヒーロー新作映画「シャン・チー/テン・リングスの伝説」の主演をシム・リウが飾るというビックニュースがファンを歓喜させた。

 俳優としてのキャリアを築く以前は、素材画像モデル、スタントマン補欠要員、はたまたドッグフードのサンプルを路上で配るバイトをして生計を築いていたというシム・リウ。今作の役が決まった瞬間を、「下着一枚でトロントの自宅にいたときに電話が来て人生が変わった」と語っている。

 思うようにいかなかった下積み時代を経験し、近年一気にワールドワイドな活躍をみせている彼は自身の体験を綴った自伝書『We Were Dreamers:An Immigrant Superhero Origin Story』を来年出版予定だ。中国出身の移民の両親を持ち、中華系カナダ人としてのカナダライフや、ハリウッド進出、親からの期待やステレオタイプとしてみられることへの葛藤など、あらゆる思いが綴られているという。

一時居住者から永住者へのパスウェイ カナダ政府と移民の関係

 今年2021年5月6日、新永住権「一時居住者から永住者へのパスウェイ」(Temporary Resident to Permanent Resident Pathway)の申請がオープンとなった。カナダ教育機関の留学卒業生、または病院や介護施設などの最前線で働く外国人一時居住者が対象となっている。

 カナダ連邦政府は9万人以上の永住権への新しいパスウェイを、

に適用すると発表した。

 このニュースに申請が殺到した同政策は11月5日に締切られた。日本と同様、人口の高齢化と少子化が進み、労働力を必要としているカナダ政府。2020年はコロナ禍の影響で移民の受け入れが思うようにいかず、すでに国内に滞在している外国人を永住者として受け入れる判断に出たとみられる。

 実際、カナダ政府は2021年から2023年の3年間を通して、合計120万人以上の移民を受け入れる計画を10月に発表している。この数字は移民大国と言われるカナダの歴史の中でも最多数。コロナ禍での不況時における移民の増加は大きな課題とも言えるが、一方で雇用の回復と経済成長促進が期待されている。

「暗くて恥ずべき歴史の一章」
先住民学校跡地に子どもの遺骨

 5月カナダ西部ブリティッシュ・コロンビア州の先住民寄宿学校の跡地で記録のない215人の子どもの遺骨が見つかった。1870年代から1990年代まで続いた同化政策は先住民の伝統文化や固有言語の伝承を絶つ目的で作られた。政府とキリスト教当局が運営していた先住民寄宿学校は、同策の一環として建てられ、遺骨として発見された子どもたちは寄宿学校の生徒だったとみられる。

 子どもたちは強制的に親から離れ離れにされ、宿舎での強いられた生活は、暴力や性的虐待、栄養失調などが蔓延していたとされる。このような学校は各地に139ヶ所にも上がり、同国の先住民団体はこうした犠牲者の集団墓地が他にもないか全国で捜索するよう政府に願い出た。

 6月には、中部サスカチワン州の寄宿学校跡地の周辺で751基の墓標のない墓が発見され、ブリティッシュ・コロンビア州の別の跡地でも同様に182基が見つかった。相次ぐ遺骨や墓の発見に、トルドー首相は「わが国の歴史の暗くて恥ずべき一章を痛烈に思い出させる」と表明した。激しい身体的虐待で聴力を失ったという寄宿学校の元生徒は今まで彼女が経た辛い経験は「記憶の底にしまってきた」と言うが世界が注目している今こそ「私たちの話を聞いてもらうチャンスだ」と声を上げている。

 カナダの黒歴史ともいえる今回の発見は、国民の心を大きく動かし、寄宿学校の生存者を先導に「Every Child Matters(全ての子どもが大切)」運動が瞬く間に国内で広まった。この運動は、悲惨な真実を学び、このようなことが繰り返されない「未来」と「愛」を全ての子供たちと、先住民同化政策の被害者やその家族へ示す目的で作られた。また、2013年に先住民寄宿学校に対しての意識を高めるためのコミュニティー・イベント・デーとして作られた「オレンジシャツ・デー」は今年、カナダ政府によって正式な祝日として制定された。

大手コーヒーチェーン「ティムホートンズ」、
ジャスティン・ビーバーとタッグを組む

 カナダ出身人気アーティスト、ジャスティン·ビーバーとカナダ大手コーヒーチェーン、ティムホートンのコラボ商品、その名も「Timbiebs」が発表された。

 11月29日からアメリカとカナダで発売される同商品はティムホートンの人気商品Timbit(ドーナツの穴をくり抜いた部分でできた小さい球状の菓子)の期間限定フレーバー「チョコレートホワイトファッジ」、「サワークリームチョコレートチップ」、「バースデーケーキワッフル」とユニークで美味しそうな3種類。

 同社のコーヒーカップを片手にパパラッチされたり、自身のSNSで想いを呟くなどカナディアンの鑑とも言えるほどティム愛を覗かせていたジャスティンは今回のコラボレーションに「慣れ親しんだティムホートンズとのコラボレーションはいつも夢にみていた」と喜びを語っている。英、仏語で放送されているテレビコマーシャルではジャスティンのフランス語にも注目が集まっている。

「三日月型の太陽が昇る」
カナダで金環日食、部分日食が観測される

 6月10日、月が地球と太陽の間を通過することによって起きる金環日食が発生した。カナダ北東部では早朝、気温摂氏22度、薄雲という好条件の中、太陽が深い部分食になりながら昇るという非常にレアな光景が観測された。

 この天体イベントは三日月型に映る太陽が地平線から昇る姿を収められる滅多にない機会で天体ファン、写真家らは独自で撮影した画像、映像をオンラインで共有した。トロント・ピアソン空港で日本人の天体ファンによって撮影された映像には、飛行機が降りてくる中、真っ赤に燃え上がる空に黄金の眩い光を放った三日月型の太陽が滑走路の向こう側からゆっくり昇っていくというなんとも幻想的な瞬間が映し出されている。

 他にも、トロントの「CNタワー」やオンタリオの「平和の塔」とともに撮影された見事な写真や映像がオンラインで見ることができる。我々に絶景を見せてくれた今回の天体イベントだが、ヨーク大学で物理学と天文学を教える教授ポール・デラニー氏はカナダで見られる注目すべき次回の天体イベントは2024年、4月8日の皆既日食だという。

カナダ総選挙、トルドー首相の自由党が第一党維持

 9月20日に投票が行われたカナダの第44回連邦下院議員選挙。 新型コロナウィルス対応が国民から評価を得ていたトルドー氏。任期満了まで約2年を残しつつも、「今がグットタイミング」と言わんばかりに選挙に踏み切った。

 カナダ全体の得票率では保守党が約34%で、自由党の約32%を上回ったが、トロント、モントリオール、バンクーバーなどの大都市で着実に議席を獲得したトルドー氏率いる自由党が第1党となった。しかしながら、新型コロナ感染第4波の最中に選挙を強行したことが反発を招き、単独過半数には届かず少数与党の状態が続いた。

 結果、大きな変化が起こることもなかった今回の選挙だがカナダの歴史上過去最高額となる6億ドルもの費用が使われ、投票率は史上最低となる58.44%となった。現地メディアのインタビューに答えたトロント在住のマーサ・ジャクソンさんは、「選挙に数百万ドルの税金を費やす代わりに、医療やデイケア、ホームレスのカナダ人への支援、先住民コミュニティーへきれいな水を支援することに使われるのを見たかった」と不満な気持ちをあらわにした。