ミシュランがカナダに初上陸!2022年秋にトロント版が誕生|特集「カナダ食学」

 待望のミシュランガイドのトロント版が2022年秋に発表されることが明らかになった。これまでカナダにはミシュランガイドがなく、数年前からトロントに誕生することが噂されていたが、パンデミックが明け、カナダ第一号として最大都市トロントでミシュランガイドが誕生することになる。

 5月に開催されたRCショーでは、ミシュランガイドがトロントに誕生することについてマーケットにどのような影響を及ぼすかということや、今後のトロントにおける飲食業界が世界的にみてどのようなポジショニングを作っていくかなどについて、ディスカッションが行われた。

ミシュランがトロントに!

 ミシュランは、新型コロナウィルス感染拡大のパンデミックが落ち着くまで、トロントでの査定をストップしていたという。パンデミックの間に調査をしても、正確な調査はできないというのがその理由だ。

今回ミシュランガイドがトロントに誕生することで、トロントの飲食業界がより活性化すると予想しているという。シェフの意欲や、より新しい料理を作ろうというクリエイティビティーにも繋がり、トロントの飲食店はより活発的かつクオリティーは今後上がることが期待されている。

「素材の質」
「調理技術の高さと味付けの完成度」
「独創性」
「コストパフォーマンス」
「常に安定した料理全体の一貫性」

ー 1900年、フランスでミシュランガイドが誕生

 タイヤ会社のミシュラン兄弟が作ったもので、今ほど自動車が普及しておらず、車両故障、タイヤのパンクも頻繁に起こるなど、ドライブも快適なものではなかった当時に、ドライバーが快適にドライブできるようにという目的で作られた。そのため、ドライバーが食事を楽しめる飲食店のリスト、宿泊施設だけでなく、ガソリンスタンドや自動車修理工場のリストやタイヤの修理方法なども掲載されていた。

ー 1923年、ミシュランガイドに星が誕生

 当初は、「快適さ」、そして「適正な値段」を評価基準とし、基準を満たす飲食店に黒い星をつけるというシステムだった。その星が「美味しさ」を表すものになったのは1926年から。そして、ガイドブックが人々に身近なものとなった1931年に、2つ星、3つ星という今のシステムが導入された。

 今ではミシュランガイドには、幅広いジャンルの飲食店が掲載されている。高級店から、カジュアルなもの、ストリートフードもあれば、軽食が楽しめるような飲食店も載っている。

ー 星の数の違いは、料理の味の違いのみ

 星1つが意味するものは「そのカテゴリーで特に美味しい料理」、そして星2つは「遠回りしてでも訪れる価値がある素晴らしい料理」、そして星3つは「そのために旅行する価値がある卓越した料理」を意味する。星を与える時の基準は5つあり、「素材の質」、「調理技術の高さと味付けの完成度」、「独創性」、「コストパフォーマンス」、「そして常に安定した料理全体の一貫性」の5つだ。

ー 実は、飲食店の内装やサービスは評価の対象ではない

 ミシュランは、美味しい食事を楽しめる飲食店についてのガイドブックを作ること、そして常に新しい情報を掲載することにも努めている。毎年情報を更新するために、調査員も毎年調査をするため、一度星を獲得した飲食店も、その後も星を保持できるわけではない。星を保持し続けるためには料理の質を保ち続ける必要がある。

ー 世界全体で評価基準を統一

 国や地域に関わらず、星が意味することは同じものであるとする。ミシュランは、可能な限り評価基準が一定になるように努めている。星をつける時には、一人の調査員の判断によって決まるわけではなく、チーム全体で判断する。調査は覆面で行われ、調査員も誰がシェフかは分からない状態で調査が行われる。

ー ミシュランの調査員

 調査員のスキルで鍵となるのは、公平で、新しい思想をもっているかどうかということ。ミシュランが調査員を選ぶ時には、その点に注意しながら選んでいる。

 調査員は、20の異なる地域から選ばれており、男女の差、地域差にも考慮されており、どんな国、飲食店、誰が作ったかに関わらず、「料理の味」、それだけを正確に評価するように努めている。

ー 日本には三つ星レストランが30店。フランスと並んで世界一

 これまでに3千店の飲食店が星を獲得した。現時点では、そのうち134店舗の飲食店が三つ星を獲得している。日本には星3つ獲得している飲食店が30軒あり、これはフランスと並んで世界一の数である。また、世界一星が多い都市は東京で、星を獲得している飲食店が226軒あることから、日本の飲食業界のレベルの高さが分かる。

ミシュラン効果

 旅行者のおよそ3分の2の人たちは、ミシュランに登録されている飲食店に行くそうだ。そして、旅行者の半分は、ミシュランに掲載されている飲食店に足を運ぶために、旅行期間を長めにしたり、よりお金を使う経済効果があるという。

 実際に、タイではミシュランガイドの影響によって経済が活性化した。より多くの旅行者がタイの現地の食べ物を食べるために旅行しており、一人当たりに換算すると、支出が10%増えたという。

 その地域にミシュランで星を獲得した飲食店があると、今まで行かなかったような飲食店に行く人が増加することも分かっており、ミシュランは経済面で見ても今後トロントはさらに活性化する可能性があると見込んでいる。

飲食業界が受けたパンデミックの影響

 新型コロナによるパンデミックは飲食業界の弱い部分を洗い出した面もあり、例えば、飲食産業に多様性が欠如していること、そしてシェフが過小評価されていることなどが如実に現れたとされる。そこでその現状を今後変えていくために、ミシュランは過小評価されているシェフなどが、正当に評価されるような業界へ変えていき、飲食業界をより活性化させたいとする。そのためにも人々をレストランにもっと訪れるようにしたいと考えている。

 飲食業界は、コロナのパンデミックによって大きな打撃を受けたことは周知の事実だ。しかし、パンデミックの後でも存続している飲食店がたくさんあるのもまた事実だ。生き残った飲食店の中には、レシピの改良や、地元の産業との結びつきの強化、そしてサスティナブルの面にも力を入れたところもあり、経営面そして味で見ても、コロナ前よりも良くなった店が多数存在しているとされる。

ミシュランから見たトロントの飲食業界と目指す社会

 トロントの飲食業界は世界的にももっと評価されるべきだとミシュランは考えており、カナダ人シェフも、もっと活気を持つべきであり、もっと活躍するべきだと考えている。そして、ミシュランはトロントの飲食業界は今後より大きくなっていく力を持っていると確信している。

 ミシュランでは、飲食業界のイメージを変え、飲食業界の悪いイメージを無くしていきたいと思っているそうだ。飲食業界では、世界的に人手が足りていないが、その問題を改善するために、人々の中にある、「飲食業で成功していくのは難しい」というイメージを変えていき、今後多くの人にとって夢を追い求められる業界であり、成功できる業界だと感じさせられるように変わらなければいけないと考えている。

 より多くの人が飲食産業に魅力を感じられるように、飲食店で働く人、そして多様性にもフォーカスしていき、今後よりさまざまな人にスポットライトをあてていくことを目指す。飲食業界は、経済そして投資家の投資意欲をかきたてるためにも、もっと頑張らなければいけない。また、飲食業界を変えていくことが、その地域にいる腕の良いシェフやサービスマンが他の地域に行ってしまう人材の流出を防ぐことにも結果的に繋がると考えているとのことだ。