大麻のいま|カナダから見るマリファナ合法化のあと

世界情勢:メキシコ、大麻合法化への大きな一歩

 去年4月、一般法において医療大麻の使用が合法化されたメキシコ。11月6日、次期内務省大臣のオルガ・サンチェス・コルデロ議員が嗜好用大麻合法化の法案を議会に提出し、法案が通過する場合、成人は大麻の所持、公共の場での使用、そして20株まで個人使用目的で栽培が許可されると報じられた。

 メキシコ政府とカルテルを巡る麻薬戦争は年々悪化しており、今回の大麻の合法化と、大麻の使用を個人の基本的権利として認めた判決の大きな狙いは、少量の大麻を所持する個人の取り締まりに限られた予算と要員を向けるよりも、毎年数千人の死者を出しているカルテルにリソースを効果的に活用し、麻薬組織の勢力を削ぐことである。

 カナダの10.17に続き、世界的に大麻合法化に肯定的な風が吹く中、メキシコのドラッグ観光が促進される可能性や、健康への悪影響を顧みない大麻消費者が増加するのではないかという懸念点はある。ただし、今回の合法化への一歩はメキシコの麻薬密売ルートをめぐる暴力に働きかけ、麻薬事情に好影響を及ぼすことが期待される。今後もメキシコ政府と犯罪的麻薬組織との戦いは続くが、メキシコの大麻解禁への動きへ注目だ。

社会問題:カナダ、過去の大麻所持処罰者は赦免に

 10.17の大麻合法化に続き、公安省のラルフ・グッデール氏は、自由民が過去30グラム以下の大麻所持により処罰を受けた者の赦免に関する法案を正式に提出すると発表した。NPO法人Campaign for Cannabis Advocacyによると、カナダには推定50万人の大麻関連の処罰を受けた者がおり、今後赦免の影響を受けるとのことだ。

 対象者への社会的負担を軽くする動きが称賛される中、今まで被害を被ってきた人種的少数派、特に黒人コミュニティに対して政府が過ちを犯したという事実を認めず、赦免が選ばれたことに対しての反対も少なからずある。2017年の調べによると、カナダの人種的少数派の大麻所持による逮捕率は白人と比較してはるかに高く、トロントで黒人が大麻所持で逮捕される割合は白人よりも3倍高いとされる。

 トロント大学社会学部のAwkasi Owusu-Bempa助教授は、Global Newsに「赦免とは政府が市民が過去に犯した過ちを許すことを示し、犯罪記録の除去は政府がある行為の違法化を過ちと認めること」「これらの前科を除去する義務は政府にあり、処罰を受けた個人にではない」と述べている。『Policing Black Lives』の作家、Robyn Maynardも同紙で 「今回の赦免という選択は、これまでの人種差別に起因する不平等が軽視されたことを意味する」と述べ、 被害を被った人種的少数派への対処として赦免は不十分との意見を表明した。

 Cannabis Amnestyの責任者で刑事事件弁護士であるStephanie DiGiuseppe氏は「法案通過後にも多くの人々にとって言語の障壁、ITリテラシー、法的な知識や地理的な問題から、申請に障壁があるだろう」と同紙で述べている。2015年の選挙公約の一つに大麻合法化を掲げていたトルドー首相にとって、合法化の実現は彼の政治的な勝利であるが、合法化が喜ばれる影で軽視されているのが少数派のコミュニティである。

 一方で、現在大麻所持処罰者の犯罪記録の除去に対して積極的に動いているのは、アメリカ合衆国カリフォルニア州のサンフランシスコとサンディエゴ。カリフォルニアの検察官は、すでに数千件の対象者の前科をひとまとめに削除するように働きかけている。カナダの自由民もこのような動きをすることはできないのだろうか。

ビジネス:コカ・コーラ社は大麻成分入り飲料は急がず

 カナダの大麻合法化にあたり 飲料業界では健康にメリットの多い大麻成分CBDが注目されている。

 先月、アメリカの清涼飲料水メーカー、コカ・コーラ社がブルームズバーグの取材に対して大麻成分CBDに注目していると発表し、カナダの大麻生産業者オーロラ・カンナビス社と飲料開発について協議していると述べた。8月にカナダの大麻企業キャノピー・グロースに40億USドルを追加投資したコンステレーション・ブランズに倣い、コカ・コーラ社の大麻企業への投資が囁かれていたが、10月30日に同社CEOのJames Quincey氏 は「現時点ではカンナビスも、CBDの使用も検討していない」と述べた。

 Budding Equity Asset managementの社長、Jason Wilson氏は「CBD 飲料は炭酸飲料の売上にとってまだ差し迫る脅威ではない。多国籍企業の清涼飲料水大手であるコカ・コーラ社が、今後のCBD関連産業の様子を伺ってからCBD製品に取り組むのは何ら不思議ではない」とMarket Watchに述べている。

 一方で、ビール、ワインやスピリッツなどのアルコール飲料の生産者と販売会社にとってCBD飲料は急を要する脅威である。コロナビールなどを製造するコンステレーション・ブランズや、ビール醸造会社のモルソン・クアーズなどの会社が、大麻業界に踏み込んでいる。Science Daily によると、今後2年間でCBD飲料の売上は推定20億ドルに達するそうだが、今後、清涼メーカーが大麻ビジネスに資本とマーケティング効果を集める日はそう遠くないのかもしれない。


本文=菅原万有 / 企画・編集=TORJA編集部