カナダ極北で受け継がれる度胸試し

ゴールドラッシュに沸いたユーコン準州にある開拓者の街ドーソン・シティ。訪問者の度胸試しとして提供されるミイラ化された足の指入りカクテル「サワートゥ・カクテル」の伝説に迫る。

ユーコン準州ドーソン・シティではSNSの発展とともにじわじわと世界に広まる驚きの伝統がある。1920年代にはゴールドラッシュに沸き、多くの屈強な開拓者が夢を見る街として名を馳せた。そんな開拓者たちの度胸を試すようなユニークな飲み物「サワートゥ・カクテル」の伝説について、サワートゥ・カクテルを提供しているダウンタウンホテルに話を伺った。

ユーコン準州ドーソン・シティーではとてもユニークなお酒「サワートゥ・カクテル」があるという話を聞きましたが、一体どういうカクテルなのですか?

サワートゥ・カクテルは1973年に考案されたカクテルでミイラ化した足の指が入っているのが特徴です。指を入れるお酒自体にはアルコール度数が40%以上であれば、特にこれで作るといった決まりはありません。ただ、多くの方はユーコン準州で作られているウィスキー「ユーコンジャック」をオーダーする人が多いです。

どのようにしてサワートゥ・カクテルが誕生したのでしょうか?

きっかけは初代『トゥ・キャプテン』を務めたディック・スティーブンソンがドーソン・シティ郊外にあるキャビンを購入し、キャビン内の物を片付けようとしていた時にアルコール漬けになった足の親指を発見したことです。キャビンから市内に帰る途中、その親指を使って何か面白いことができないかと考えを巡らし、仲間内で度胸試しを兼ねてショットにいれたことが始まりです。

キャビン内で見つかったその足の指は一体誰のものなのですか?

キャビン内で見つかったオリジナルのサワートゥは1920年代のものだと言われています。当時のドーソン・シティは北米内でも最大といわれるほどゴールドラッシュの影響を受け、多くの開拓者が一攫千金の夢を見て集まる活気あふれる街でした。その血気盛んな開拓者たちに提供する酒を作る人も多く、またアメリカでは禁酒法が敷かれていた時代ですので、アメリカへ秘密裏にお酒を販売する人も多くいたそうです。足の指が見つかったキャビンもドーソン・シティからアラスカへ抜けるルート上にあり、足の指の持ち主は伝説によるとラム酒の密輸をしていたリンケン兄弟のものだといわれています。

リンケン兄弟はいつものようにラム酒をアラスカへ届ける途中、非常に大型なブリザードに遭遇してしまいました。ホワイトアウトのせいで犬ぞりを引く犬たちが迷い始めた頃、兄のルイスがそりから降り、犬たちを助けチームの統率を取り戻そうとしました。その時にルイスは片足を氷水に突っ込んでしまいましたが、追っ手が来ているかもしれない事実に怯えた兄弟はそのまま配達を続けることにしたのです。そしてアラスカ到達直前にキャビンで小休憩を取った時にはルイスの足の親指はひどい凍傷を負っており、壊死を恐れた兄弟はその指を切断することに決めました。その場で斧を使って弟のオターがルイスの足の指を切り落とし、兄の勇敢さを称える記念にとその指をアルコール漬けにして保管することにしたようです。その足の指を数十年経った今、ディック・スティーブンソンが見つけたのです。

サワートゥ・カクテルが提供される前には”Toe”キャプテンから儀式について説明がある

今でもその足の指が提供されているのですか?

実はオリジナルのサワートゥは1980年にギャリー・ヤングアーが間違えて飲み込んでしまったので、現在提供されているサワートゥはドネーションで得たものになります。当時の話によるとギャリーは15杯近くのシャンパンを飲んでおり、非常に酩酊して冗談でサワートゥを口の中に含んでいる時に足を滑らせ、倒れた時に飲み込んでしまったとのことです。

どのような形で新しいサワートゥを得るのですか?

医療的な理由から切断を余儀なくされた足の指を皆さんの善意で提供してもらっています。足の指は親指である必要はなく、実際凍傷などを理由に提供される指は主に小指や薬指が多いです。他にも芝刈り機の事故で複数の指を提供してくれた方もいますし、ブルドーザーとの事故で足を切断した少年は5本の指全てを提供してくれました。

提供された指は一本ずつ塩漬けにされ、ホテル内でミイラ化します。サワートゥ・カクテルとして提供した後には綺麗に水分を拭き取り、また塩の中に戻されます。それでも永遠にサワートゥとして提供し続けられるわけではなく、時間の経過とともに損傷が出て来ますので、適宜処分が必要になり、また、新しいドネーションを呼びかけるという形でこれまでサワートゥ・カクテル・クラブの運営が続けられてきました。

1.カクテルを飲むペースは個人の自由 2.儀式を終えカクテルを飲み干すとクラブ加盟証明書がもらえる 3.ホテル裏には飲み込まれてしまった足の指用のお墓がある 左:足の指はそれぞれ塩漬けにして保管されている 

サワートゥ・カクテル・クラブとは一体なんなのでしょうか?

1973年にサワートゥ・カクテルが考案された際に設立されたクラブです。ディック・スティーブンソンが度胸試しとして仲間内で始めたものですが、ショットを飲みきり、グラスの中に入っているサワートゥに唇が触れればクラブの一員として迎えられるという仕組みです。このサワートゥ・カクテルが考案されてから現在までで世界各地から10万人以上の人が挑戦し、クラブに入会しています。特別な活動があるわけではありませんが、飲みきった際に入会証として賞状と通し番号の入ったメンバーカードが授与されます。

これまでに非常に多くの方が挑戦されて来たのですね。挑戦される方が初めてサワートゥを見た時のリアクションなどはいかがでしょうか?

実は多くの方がミイラ化された指であることを知らないようで、切り落とされたばかりのピンク色の生々しい指を予想している場合が多く、驚かれたり、戸惑う人が多いですね。飲みきるまではあまりリアクションを取らない方も多く、サワートゥに対する反応は本当に十人十色だと思います。

サワートゥ・カクテルを飲む際のルールなどはあるのでしょうか?

最も大切なルールはサワートゥを飲み込まないことです!!これまでギャリーのようにアクシデントでサワートゥを飲み込んでしまう人がいたのですが、2013年に意図的にサワートゥを飲み込んだ人が出たので、それからはサワートゥを飲み込んでしまった場合には2500ドルの罰金を支払ってもらうことになっています。後は唇がサワートゥに触れるぐらい、しっかりとお酒を飲み干すことができるのであれば一気飲みでも時間をかけてゆっくり飲むのでも、挑戦する皆さんの自由です。

今後ユーコン準州を訪れることがあるかもしれないTORJA読者へメッセージをお願いします。

一時期、開拓者の街として栄えたドーソン・シティでは今もその鉱山を見学したり、当時から続く文化やアートを楽しむこともできます。またカナダの他の都市と比較しても極北に位置するドーソン・シティではオーロラ鑑賞を楽しむことができますし、雄大な自然を満喫することもできます。短い夏ですが、見所も楽しめるアクティビティも多いので、ゴールドラッシュに沸いた開拓者の街を是非一度見に来てください。

Downtown Hotel

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