「自分の人生の責任は自分で取る」高浪歩未さん|カナダでチャレンジする日本人シリーズ|特集「SDGs・女性とジェンダー平等 in Canada」


高浪 歩未さん
2001年1月19日生まれ/東京都出身

早稲田大学/トロント・クリケットクラブ所属
フィギュアスケート選手(アイスダンス)

 昨年2021年の全日本選手権アイスダンスで3位に輝くなど、いまフィギュアスケートの世界で注目を集めている高浪歩未さん。現在は早稲田大学に在学しながら、トロントにあるクリケットクラブでトレーニングを重ねている。勉学では「早稲田アスリートプログラム優秀学業成績個人賞」を2年連続で受賞するなど文武両道に励む一方、ワーキングホリデービザでアルバイトなどを通じ、社会に出て大人としても成長できていると語る。今回は高浪さんにアスリートとしての歩みとともに、若くして海外に出て目標に向かって打ち込む女性として、現代社会の課題でもあるジェンダー平等や女性のエンパワーメントについても話を伺った。

ーフィギュアスケート・アイスダンスを始めたきっかけ

 小さい頃アメリカ、ミシガン州に3年ほど住んでいたときにデトロイトスケーティングクラブ(以下DSC)でシングルとアイスダンスを始めたのがきっかけです。当時DSCには、世界中からアイスダンスのトップ選手が練習していて、近くのリンクには、メリル・デービス&チャーリー・ホワイトやシブタニ兄弟なども練習していました。DSCのアイスショー等で、メリル・デービス&チャーリー・ホワイトの演技を見たり、彼らの練習風景などを見るたびに、アイスダンスの世界にあこがれ、いつか彼らのような演技ができるようなアイスダンサーになり、観客の記憶に残るような演技がしたいと思うようになりました。

ートロント・クリケット・スケーティング・アンド・カーリングクラブでの学び

 前パートナーとカップルを組んだのをきっかけに、 クリケットクラブに在籍することになりました。クラブでは、チームメイトにNatalie D’ALESSANDRO/Bruce WADDELLがおり、多くの刺激を得ることができます。シングルの方々とトレーシー先生とブライアン先生のレッスンを取ることがあるのですが、生徒一人一人の個性を伸ばしてくれるレッスンをしてくれる先生のレッスンは毎回新鮮で、これまで以上にスケートが大好きになります。素晴らしいシングル選手の方々と一緒に滑ることで、スケーティングの基礎を再度見直す機会を得ることができています。スケートは関係ありませんが、クラブの皆さんがとても紳士的で、心が温く、スケート以外の点でもみなさんから人間として学ぶこともたくさんあります。

ートロントでの生活

 月曜日~金曜日は、通常は早朝5時ぐらいに起きて約2時間半アイスダンスの練習をし、土曜日も午後一時間練習しています。クリケットクラブではジムも利用できるので練習後にはジムでトレーニングも行なっています。週数回、シングルスケーターの皆さんとストローキングの練習などもしています。

 プライベートの時間は、現在ワーホリビザを持っているので、週数回Taro’s Fishでアルバイトをしています。料理が好きなので、魚のさばき方や盛り付けなどを見ることができて、とても楽しいです。また、アルバイトができることで、練習代等の費用に充てることができるので、雇って頂いたTaro’s Fishの太郎さんには感謝で一杯です。

〝今まではスケートと勉強しかやってこなかったので、このように社会に出てみることになってより大人として成長でき、たくさんの人と出会うことができていると思います。〟

 カナダで生活を始めて感じたことは、以前住んでいたミシガン州とは違い、トロントは交通の面でとても便利なことにすごく驚きました。また、多民族国家として、さまざまな多様性を尊重している国であり、いろいろなバックグラウンドを持つ人たちが平等に社会参加しやすい国だと感じています。

ー壁にぶつかった時や気持ちの切り替え

「自分の人生の責任は自分で取る」

 私は、アイスダンスを競技として続ける上で「自分の人生の責任は自分で取る」と心に留めています。なぜならば、カップルを組むということは、自分ではコントロールできない事も発生するからです。もちろん、問題が発生した場合など、私のできる範囲で解決方法を伝えますが、それが必ずしも、パートナーの問題の解決にはつながりません。その場合は、考えても仕方がないので、次に進むようにしています。

 競技結果などで悔しい思いをした場合もそうです。結果が出てしまった以上、結果を覆すことはできません。結果を受け入れ、改善点等をパートナーやコーチと話し合い、次への試合に向かうようにしています。その際に、自分のマインドセットを上手に切り替えられるよう、スケートとは関係がない友人と会ったり、散歩などをして心のバランスを大切にしています。

ー文武両道に励む理由

「早稲田アスリートプログラム優秀学業成績個人賞」を2年連続で受賞

 大学へはスポーツ推薦ではないので、両親に学費を出してもらっています。また、自分の好きなアイスダンスも続けさせてもらっています。両親やその他の方々にサポートして頂いている以上、両方を精一杯頑張りたいと思い、文武両道で頑張っています。

〝スケートを始めてから両方とも大好きでやらせてもらっているので、一度もどちらかをやめたいとは思ったことありません。〟

 また、スポーツと勉学を一緒に頑張ることで相乗効果や勉学で学んだことをスケートに生かすことができたり、多くの方と出会うことで、人として大切なものを学ぶことが多いと思います。

ー表現力・想像力の向上

 パンデミック中は見に行けなかったのですが、ミュージカルやバレエなど演技を実際に鑑賞したり、映画などを観て演技をしている人の真似などをして表現力を鍛えたりしています。毎年、曲を選んだ際にはその映画やミュージカルを生で、またはユーチューブなどで勉強したり、過去にその曲で滑った選手の映像などで研究しています。

 また、バレエやダンスのレッスンを受けたり、昨年より帰国の際など小尻先生のレッスンを受けさせて頂いているのですが、カナダに戻っても空いている時間に習ったことを反復練習することで、アイスダンスでの表現等に生かすようにしています。

ー若くして海外でチャレンジするということ

「若い時の苦労は買ってでもしろ」

 このことわざは、「若い時にする苦労は貴重な経験となるから、自ら進んで、面倒だったり大変と思われる選択をしましょう」という意味ですが、初めて生活する国で、何もわからないところから、人との交流が始まり、一つ一つ問題を解決していく。これはまさしく、現在のトロントでの私の生活はことわざの通りです。

〝日本の外から、普段考えない視点から日本について学ぶこともあります。〟

 10~20代の早い時期にこのような事を経験できることは、将来自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力につながると思い、この経験をできていることに対して両親を含め、たくさんの方々に感謝をし、将来につなげて恩返しをしたいです。

フィギュアスケートは私の日常生活の一部

 フィギュアスケートは他のスポーツとは違い、芸術性が評価されます。

〝アイスダンスは男女で演技するので、より幅広い物語を表現することができたり、その分楽しさと達成感が倍になるところが魅力です。〟

 実際に演技をして、観客に自分たちが演技を通じて伝えたかったメッセージが届いた時が嬉しいです。

 私にとって、フィギュアスケートはスポーツではありますが、大好きで、滑ることがとても楽しく、私の日常生活の一部です。たくさんの思い出も作り上げてきて、たくさんの人にも出会うことができました。ただ、米国やヨーロッパと比べ、日本ではアイスダンスがまだマイナー競技なので、アイスダンスを見たことがない方に一度は見て、魅力を知ってもらいたいです。

高浪さんの素顔を知れるズバリ一問一答

名前の由来

 未来に向かって一歩一歩進んでいってほしいという両親の願い(Get along step by step in the future.)

女性として憧れの人

 佐藤マクニッシュ怜子さん。怜子さんのYouTubeも見ていて、彼女の行動力や努力がとても魅力的です。彼女の強みや多様性のバックグラウンドを活かして、ブランドを立ち上げて、グローバルに働いていてとても尊敬しています。

カナダはどんなところ?

 カナダに住んでからまだ一年も経っていませんが、特にトロントは活気がある街なので東京と似ていて、すぐに慣れました。とても便利な街、とてもおしゃれなお店もあるので、最近はオフの日には雑貨屋さんやカフェに行って過ごすことが多いです。

トロントで出会った忘れられない人

 今クリケットクラブにいる、アンドリュー先生、ジョイ先生、トレイシー先生そしてブライアン先生です。1人で練習をしていても元気づけてくださり、スケートの楽しさをより一層教えてくれます。一つのエレメンツやスケーティングに対してもちょっとした工夫をすることで、ひと蹴りでスピードが増したり、遠くまで滑ることができるようになりました。

競技前の頭の中は?

 試合によって緊張の度合いが違うのですが、全力で最後まで楽しく演技をすることを考えています。日々の練習の積み重ねを信じ、考えすぎずにリンクに入ります。考えすぎると体が固まり、演技も楽しめずに終わってしまうので、大好きなスケートへの気持ちを全力でみんなに伝えることを考えています。

プライベートはどんな人?

 友達とは割とはっちゃけているのかなと思っています。スケートをやっているとなかなか学校の友達と会う頻度は少ないので、会えた時はその時間を大切に思い存分楽しんでいるからかなとも思います。家にずっといるのがあまり好きではないので、オフの日でも散歩に行ったりすることが多いです。他のスポーツも好きで、サッカーをするのと見るのが好きです。高校時代ではフットサル部にも入っていたことがあります。

フィギュアスケート以外で勉強したいことや挑戦してみたいことは?

 大学を選ぶ時に断念したのですが、まだ興味がある分野はキネシオロジーです。スポーツや運動が好きなのと、科学系も好きなので、それを合わせて身体の動きについて勉強したいです。そのほかに、大学ではスポーツビジネスも受講し、とても興味を持ったのでスポーツビジネスについてもっと勉強したいとも思います。スケート以外で挑戦してみたいこととしては、トロントでの貴重な経験として、もっと人との出会いを増やしたいです。たくさんの人と話し、コミュニティーを増やしたいです。

目標と次のステップ

 アイスダンスの目先の目標は、パートナーを探し競技に戻ることです。ただ、不確実な社会情勢が続いているので、なかなか直ぐには見つからないと思いますが、ご縁を信じて日々練習に精進していきたいと思っています。

「ジェンダー平等」と「女性のエンパワーメント」について思うこと

ー女性であることとフィギュアスケーターもしくはアスリートであることはどのようなエンゲージメントがある?

 アスリート=男性というイメージがあるということを以前「espnW Brasil-Invisible players」をみて、少し衝撃を受けました。そういう意味では、フィギュアスケート=女性というイメージがあるかと思います。ただし、

“男女関係なく、女性だからこういう演技やパフォーマンスをしないといけないと考えたことは一度もありません。”

 フィギュアスケーターそしてパフォーマーとして、選んだ曲で伝えたいストーリーを演じています。

ー女性の社会的地位の向上やジェンダーギャップなどが注目されています。高浪さんがこれまで歩まれてきた環境や女性を取り巻く環境について

 小学生のころ3年間アメリカで育ち、日本に戻りましたが、学校生活で「女子だからだめ」とか「女子のくせに」というような言葉などは全くありませんでした。アメリカの現地校も日本のインターナショナルスクールにも多様な生徒が通っていたので、どちらの学校も個を大事する環境が整っていたと思います。
 公私ともに私が歩んできた環境では、不公平さはあまり強く感じることはありませんでしたが、母がフルタイムで仕事をしているのを小さい頃から見ていて、

“女性がキャリアを積んでいく際、結婚、出産と育児のタイミングってすごく難しそうだな・・と感じました。”

 私も、アスリートとして、または社会に出た際に、将来必ずぶつかる壁かなと思います。
 また、一般社会を見ると、日本はまだまだ女性の社会的地位の向上やジェンダーギャップの問題など改善が必要なところがたくさんあると思います。

“将来海外での経験を活かし、何らかの形でこのような社会問題にも何か貢献をしていけるようになりたいと思っています。”

ージェンダー平等や女性のエンパワーメント、解決すべき社会の課題などについて

全ての人に平等に教育が受けられる環境が必要

 最近SDGsについて記事などを読む中で、「5.ジェンダー平等を実現しよう」はやはり目に留まります。データを見ると、意思決定への女性の平等の参加、女性に対する暴力(体のみならず心への暴力)などたくさんの不平等さがデータからうかがえます。

 このような社会的課題を解決するには、やはり女性だけではありませんが、全ての人に平等に教育が受けられる環境が必要だと思います。教育を受ける機会を奪われているために、平等を勝ち取るための意見を発言する場に参加できないことや、適切な労働につくことができず、人として平等な扱いをされない等、多くの不公平さが生まれていると思います。

 一部の国では女子が教育を受けるのが非常に難しい国があるようですが、改善できる策がないのか?と本当に疑問を感じています。