【第4回】ハーグ条約と夏休み|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

【第4回】ハーグ条約と夏休み|カナダの国際結婚・エキスパート弁護士に聞く弁護士の選び方

 夏休みのプランはお決まりですか。それとも「まだ早い」とお思いですか。しかし、離婚などで子どもの両親が別々に暮らしている家族にとって「夏休みのプランは3月までに」というのは年中行事です。

 それには、こんな理由があります。まず、セパレーション・アグリーメントでそれぞれの親が子どもと過ごす休暇の時期や期間が定められます。そして、海外旅行など夏休みの計画を互いに交換するのが、毎年3月頃なのです。

 今、「めんどくさ~い」と感じた方、「親子の海外旅行をめぐり、父母が法廷で争そうこともある」と聞くと、こんどは仰天なさるでしょうか。
 そこで、エキスパート弁護士、ケン・ネイソンズにハーグ条約と夏休みについて詳しく聞いてみました。

パスポートと渡航同意書

 まず海外旅行に必要なものは、パスポートです。子どものパスポート申請には、両親が共に申請に同意する旨の書類に署名しなければなりません。これは、カナダのパスポートでも日本のパスポートでも同じです。

 パスポートを手に入れた後も、更なるハードルが待っています。片方の親が子どもと一緒に国境を超える場合には、同行しない親から「子の海外旅行を許可する手紙(Written Consent)」をもらう必要があります。「ハーグ条約」でおなじみの「親による子の誘拐」の取締りが厳重になった昨今、このもう一方の親の「許可」は、ますます大切になってきました。

 そして、父母が子どもの海外旅行計画に合意できない場合、この「許可」をめぐる争いが法廷に持ち込まれることもあるのです。

海外旅行を許可しない理由

 親が子どもの海外旅行を許可しない理由には、次のことが挙げられます。

• 子どもがカナダに戻って来ないのではないか?
• 旅行先が政治的社会的に不安定で、旅行中子どもが危険な目に遭うのではないか?
• 旅行中、同行している親が子どもを十分監督することができないのではないか?

 これらが話し合いで解決できない場合、裁判官の判断に委ねることになります。子どもの海外旅行を許可するかどうかは、次を考慮して判断されます。

①子の海外旅行に関するセパレーション・アグリーメントが存在するか

 裁判官は通常、過去の判決やセパレーション・アグリーメントを尊重しますが、事情によっては異なる判断が示されることもあります。

 例えば、父親が子どもをディズニー・ワールドに連れて行きたいという希望に対し、母親が「同意書に反する」と異議を唱えた裁判では、裁判官は父子の旅行を許可しました。

②子どもに同行する親にカナダ社会と深いつながりがあるか

 同行する親がカナダで長く暮らしており、カナダで仕事をしていたり、同行する子ども以外の家族がカナダにいたりする場合、子どもとの海外旅行が許可されやすいようです。

 つまり、カナダでの雇用やカナダ社会との深い関わりを示すことで、同行しない親が懸念する「カナダからの脱出計画」を否定することができるのです。

③渡航先がハーグ条約の加盟国か

 ここでいうハーグ条約とは、「子の誘拐が発生した場合、元の国へ戻す」という国境を越える子の移動に関する国際条約です。しかし加盟国同士であっても、子の返還が「保証」されるわけではありません。子の海外旅行に同意しない親は、同条約が意図した通りに子どもが返還されないことを恐れているのです。

 もし法廷が、「誘拐の疑い」に信憑性を認めた場合、ハーグ条約の加盟国への旅行であっても、許可されない可能性もあります。

④渡航先の社会情勢は安定しているか

 2005年、母親が自分の祖国レバノンへ我が子と出かける許可を求めた訴訟では、祖父母との交流というプラス材料より、紛争に巻き込まれる可能性というマイナス材料が重視されました。

 しかし、「子どもを危険から遠ざける」綿密な計画書が提出され、その旅行が子どもにとって大切な旅行であることが証明できれば、社会情勢が不安定な国への旅行も許される可能性もあります。

⑤渡航目的は何か

 法廷は、海外旅行は「子どもにとってよい経験である」と見なします。また、普段は会えない親戚や友人との交流は奨励すべきだとします。

 同時に法廷は、海外旅行にはリスクが伴うことも認識しています。したがって、先のレバノンのケースのようにプラス面とマイナス面を秤にかけるのが、法廷の仕事なのです。
 
 3月までに夏休みの計画を立て、余裕を持って意思の疎通を図ることが、両親が別々に暮らしている家庭にとってどれほど重要であるのかをエキスパート弁護士、ケン・ネイソンズに伺いました。

【参考】 子供が海外に出るときには、両親の「許可」が必要です。詳細はカナダ政府サイトでご覧になれます。https://travel.gc.ca/travelling/children/consent-letter
ハーグ条約については、過去のTORJA記事をご参照ください。http://torja.ca/marry-abroad-17/

ケン・ネイソンズ: B.C.L, LL.B, LL.M(Family Law)

 日本人の国際離婚を多く手掛ける。ていねいに話を聞く姿勢は 移住者女性に好評。ネイソンズ・シーガルLLP設立パートナー。趣味はモデルカー収集。

野口洋美: B.A. M.A.

 ヨーク大学で国際離婚とハーグ条約に関する研究に携わる。国際結婚に関する執筆多数。ネイソンズ・シーガルLLP所属。趣味は日本語ドラマ鑑賞。