第8回 カナダの化石燃料産業とESG(環境・社会・ガバナンス)の潮流|みらいのカナダ株式投資大作戦

第8回 カナダの化石燃料産業とESG(環境・社会・ガバナンス)の潮流|みらいのカナダ株式投資大作戦

今回は「カナダの化石燃料産業とESG(環境・社会・ガバナンス)の潮流」と題して、カナダの化石燃料関連銘柄を取り巻く状況を紹介します。

 2021年1月に就任したアメリカのバイデン新大統領は、就任日早々にTC EnergyのキーストーンXLパイプライン(Keystone XL pipeline)の建設許可を取り消しました。

 バイデン新大統領は就任前から環境・エコへの投資を強化すると明言しており、カナダの化石燃料産業にとっては厳しい4年間が始まったと個人的に思っています。

 近年、環境保護を重視する政治家や、欧米系の機関投資家を中心に、カナダの化石燃料事業者を含む石油産業への投資を避ける流れがあります。化石燃料の開発地球温暖化を含む気候変動への影響が懸念されるためです。

 このような流れは「ESG投資」と呼ばれます。ESG投資とは、環境(Environment)や社会(Social)へ配慮し、また企業統治(コーポレートガバナンス、Governance)の優れた企業を選別して投資することで、持続可能な世界を作ろうというものです。

 今回はカナダの化石燃料産業をテーマに、近年のESGの潮流がどのような影響を与えているかを一緒にみていきましょう!

キーストーンXLパイプラインを巡る経緯

 キーストーンXLパイプラインはTC Energyが2008年から計画してきたパイプラインで、アルバータ州からアメリカのテキサス州まで接続されている「キーストーンパイプライン」の拡張を目的としていました。

 2008年の建設計画直後から反対運動が始まり、2015年のオバマ大統領政権下で一度建設申請が却下されています。

 2016年、トランプ大統領は伝統的な化石燃料産業を保護する姿勢を示し、米国の鉄鋼を使うことを条件に、キーストーンXLパイプラインの建設を承認しました。しかし、再び許可を取り消されたのは冒頭で述べた通りです。

 バイデン大統領は就任前から、キーストーンXLパイプラインの廃止を公約として掲げてきました。バイデン氏の主張は「化石燃料ではなく環境・エコへの投資を行う」とのものでした。

オイルサンドと機関投資家の撤退

 カナダの化石燃料産業を理解する上で「オイルサンド」は重要です。

 オイルサンドは原油成分のこびりついた砂のことです。オイルサンドの原油成分を改質・精製したものを「合成石油」と呼び、合成石油から従来の石油同様にガソリンや重油などを作りだせます。

 オイルサンドはアルバータ州でよく採掘されるため、カナダの主要なエネルギー資源として輸出されてきました。

 バイデン大統領が就任早々にパイプライン事業を取り消した理由の1つは、キーストーンXLパイプラインがオイルサンドをアメリカに運ぶために建設されるものだったからです。

 オイルサンド採掘の問題点は、通常の油田からの採掘に比べて二酸化炭素の排出量が多いとされる点です。加えて、オイルサンドの採掘には河川から採取された水を使用するため、水資源への影響も懸念されています。

 そのため、バイデン氏は「カナダのオイルサンドはとても汚れている」とも述べています。

 一部の欧米系の機関投資家は、ESGの観点から、オイルサンド採掘事業者(Canadian Natural Resources、Suncor Energy、Imperial Oil等)、またはオイルサンドから精製した合成原油を輸送するパイプライン事業者(TC Energy、Enbridge等)への投資を中止してきました。

 機関投資家の場合、企業の持続的な発展という観点よりも、「巨額の資産を運用する投資家の社会的責任」としてオイルサンド事業者や関連する化石燃料事業者への投資を避ける傾向が強いです。

 機関投資家の買い手が抜けるということは、株価が上がりにくい、または売り圧力がかかることを意味します。これらの銘柄に投資するということは、どうしても世界の潮流に対して逆張り的な姿勢になるかなと個人的には思っています。

まとめ

 今回はカナダの化石燃料産業とESGをテーマに解説しました。

 2020年の相場では環境・エコをテーマにした銘柄(例えばCanadian SolarやBrookfield Renewable Partnersなど)が市場を賑わせました。また、2021年2月にはBMO Clean Energy Index ETF(ZCLN)が上場するなど、今後も環境・エコをテーマにしたブームは続きそうな雰囲気です。

 このまま化石燃料の時代が終わっていくのか、それとも環境・エコのブームは一過性で、再び化石燃料銘柄が買われる時が来るのか。あなたはどちらだと思いますか?