もっと美味しくお茶を楽しむコツとは?公認ティーソムリエ Linda Gaylardさん インタビュー | 特集「紅茶、飲む?」

Lindaさんとお気に入りの茶器たち
著書である“The Tea Book”が2017年のBest Tea Publication賞を受賞しているLinda Gaylardさん。彼女は2010年にジョージ・ブラウンカレッジのティーソムリエプログラムを修了してから8年間、第一線で活躍しているカナダを代表するティーソムリエだ。今回は彼女がティーソムリエになってからのことや、より美味しくお茶を選び、飲むコツを伺った。

日々お茶について勉強し続けています

■ティーソムリエのお仕事内容を教えてください。

ティーソムリエという言葉自体はワインソムリエから借りてきたものです。ワインソムリエといえば、ワインと食べ物の組み合わせやワインの産地、特徴、歴史などのワインに対する知識がとても深いですね。

ティーソムリエはそのワインソムリエのやっていることをお茶に置き換えた仕事をしています。お茶に置き換えると、例えばホワイトティーであればその茶葉はヒマラヤ山脈のとても高い位置で育ったものである、そしてチャノキという植物から採取できるものだということを知っています。また、ホワイトティーの茶葉が育つ環境はとても寒く、茶葉自体の成長が遅いのでとても繊細ながらも甘みのあるお茶になります。

このように、お茶に対する基本的な知識を付けていくことは勿論大切ですが、ティーソムリエとして、ただお茶のことを知るだけでなく、その背景にある文化や歴史をより追求していきたいという好奇心を大切にするようにしています。実際、ソーシャルメディアを使っていると、まだ私が目にしたこともないようなお茶を飲んでいる方がいることもあります。こういったお茶がいつトロントに来るかもわかりませんので、日々お茶について勉強し続けています。

■今までで一番印象に残っているお茶はありますか?

2012年に中国のある地域を訪れたときのことなのですが、そこで出会った農家さんが安吉白茶という緑茶を使ってブラックティーを作ろうとしていて、そのお茶がとても印象に残っています。この安吉白茶というのは緑茶なのですが、お茶にするととても薄い緑色になり、茶葉自体もとても薄い緑色です。このお茶を単体で飲むと、とてもさっぱりとしていてちょっと柑橘系の味もするとても美味しいお茶です。ですが、これがブラックティーになると更に美味しくなります。

カナダに帰ってきてから、安吉白茶をお茶好きな友人たちと飲んだのですが、全員が全員びっくりするほど美味しかったんです。いまではトロントでもこのお茶を取り扱っているお店が出てきていますね。当時、このお茶を始めて飲んだ時はお茶のプロとしてとても嬉しい気持ちと誇らしい気持ちがありました。

■“The Tea Book”というお茶の世界では知らない人がいないと言ってもいい本を書かれていますが、これを書くことになったきっかけは?

最初にこのお話をいただいたとき、実はあまり乗り気ではありませんでした。締め切りを確認して、この本へしっかりコミットできるのかという不安があまりにも大きかったのです。そんな時、息子が「この本を書くことでもっとお茶のことを知れるんじゃない?」と声を掛けてくれたことが背中を押してくれました。実際、この本を書いていく中で学んだことは本当にたくさんありました。本を書いている時、自分自身がお茶の勉強を始めた頃に「こんな本があったらなあ」と思えるような本にするよう取り組んでいました。この本ではお茶に関するあらゆる情報をイラストや写真、チャートなどを使って紹介しています。

もう1つ大切にしていたことは、余計な情報は省きながらも内容がシンプルになりすぎないことです。お茶に関しては初心者だという方だけでなく、中級者や上級者にも魅力的だと思ってもらえる本にしたかったのです。今では北米地域でお茶の教科書として使われたり、日本語を含め12か国語で読める本になりました。

中国で茶葉を見るLindaさん

■ティーソムリエになろうと思ったきっかけは?

思い出すと、生活の中にいつもお茶があったので、お茶自体にはとても親しみは持っていました。私は叔母が何人かいるのですが、叔母たちにとって姪は私一人だったのです。なので、叔母たちの家を訪れると綺麗な茶器やカップで美味しいお茶を飲んだ思い出がありますね。

1人暮らしを始めた頃も変わらずよくお茶を飲んでいたのですが、当時は緑茶がどうしても苦手でした。ちゃんとした淹れ方を知らず、他のお茶と同じで熱いお湯に5分間くらい置いてしまったせいでとても苦くなってしまっていたのです。

このように、お茶は私の生活の一部なのですが、ある時ジョージ・ブラウンカレッジがティーソムリエのプログラムを開設することを知りました。知ったのはプログラムが開設される数年前だったのですが、すぐに興味を持ったのでカレッジに毎年電話をすることで少しでも早く情報を手に入れようとしていましたね。同じ時期に、20年間続けてきた仕事の景気も変わってきていたのでキャリアを変えるタイミングとしてはちょうどよかったです。

2017年に世界的な賞を受賞したLindaさんの著書“The Tea Book”

■トロントではどのようなお茶が人気ですか?

トロントだけでなく、カナダ全体に言えることですがマサラチャイと抹茶がとても人気ですね。この時期に特に人気になることからわかると思いますが、このお茶には体を温める効果があります。

チャイや抹茶というと、皆さん大手コーヒーチェーン店等のラテを思い浮かべるかもしれませんが、ほとんどのお店では本当のお茶ではなくシロップを使っています。それも勿論美味しいですが、一方でモントリオールやトロントにはより本来のチャイと抹茶を知ってもらおうと、個人経営のカフェやお店が出店してきています。

■ルースリーフティーとティーバッグで売られているお茶の違いは?

ありますね。調達の部分から違ってくるのですが、スーパー等で買えるお茶は間に入る方がとても多いせいか生産者の顔が見えてこない場合が多いです。おいしい茶葉は、販売店が直接購入していたり、実際に畑を訪れてみたりすることでプロセスの透明度が高いことがほとんどです。

生産工程で言いますと、スーパーのお茶は農薬を使って茶葉の成長を促しているものもあります。そこで成長した茶葉はホッパーに入れられ、バラバラにされて出てきます。機械を使って作業をすることが悪いわけではありませんが、この部分の工程は味を決めるものですので、とても重要になってきます。

Lindaさんがブレンドしたお茶とお気に入りの茶器

茶葉の特性について興味を持つことでより上手に茶葉を選べるように

■お茶を選ぶときのポイントを教えてください。

オンラインで買ってみることをお勧めします。サイト上でお茶の生産工程等の情報を載せているところを選んでみてください。

また、オーガニックに拘る必要もそんなに無いと思いますね。オーガニックとして認定されるためには高い認定料を払う必要があります。それを払うことのできない農家さんもたくさんいることも事実です。

認定の種類にもよりますが、中には特定の種類の農薬であれば使ってもいいことになっている場合もあります。ですので、伝統的な生産方法をとっていることや、標高の高い場所で茶葉をそだてていることが分かれば、オーガニック認定がされていなくても実はオーガニックな茶葉であることがわかります。茶葉の特性について興味を持っていただくことでより上手に茶葉を選べるようになるのではないでしょうか。

もしそれでも不安だという方はCurati.coというサイトに行ってみてください。このサイトは私が自分で実際に試し、厳選した茶葉を売っていますので安心して試していただけます。

■お好きな日本茶はありますか?

抹茶が1番好きですね。家にも何種類か常に置いてありますが、私にとってはご褒美のようなお茶なので月に数回程度しか飲みません。飲むだけでなく、お菓子作りにもよく抹茶は使っていますね。本を書いている時も、抹茶のカフェインの力をよく借りていました。

2番目に好きなのは玄米茶でしょうか。飲むととっても満足感があるお茶ですね。

3番目に好きなお茶は玉露です。小さな急須に入れて大切に飲むだけでなく、使い終わった茶葉はポン酢をかけて食べています。お湯で柔らかくなった茶葉の触感がとても好きです。

■TORJA読者におすすめのお茶はありますか?

武夷岩茶というお茶がおすすめです。このお茶はどんな食べ物に合う、とても美味しいお茶です。中国は福建省の武夷山市で生産されている烏龍茶の一種なのですが、名前の通り茶樹が山肌の風化した岩に生えているお茶です。とても味がはっきりしているのに、しつこい味ではない飲みやすいお茶です。男性でこのお茶を気に入っている方が多いですね。

お茶に対する抵抗感のようなものを少しでも取り除けたらと思っています

■今後の展望を教えてください。

もっとイベントに登壇したり、お茶教室を開いたりしたいですね。皆さんが持っているかもしれないお茶に対する抵抗感のようなものを少しでも取り除けたらと思っています。お店にいっても、お茶の買い方がわからなかったり、何を質問すればいいかわからなかったりで心が折れてしまう方も中にはいるのではないでしょうか。そういう方に、サンプルを買ってみるといったようなアドバイスを与えたりすることで少しでも助けになれればと思います。

本の方では、読むたびに書き直したい部分や加筆したい部分が見えてくるのでその都度出版社に改定を送っているのですが、その内次のエディションが出ることを楽しみにしています。

他には、お茶の産地で有名な地域に旅行をしたいです。まだインドや日本にはいったことがないのです。日本であれば、宇治で抹茶について学んだり、静岡で緑茶について学びたいですね。

■最後にTORJA読者へのメッセージをお願いします。

お茶に対してもっと挑戦をすることで知識を深めてもらい、色々試していっていただけたら嬉しいです。


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Theteastylist.com

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