第25回 海外での継承日本語は孫には受け継がれない!?|カエデの多言語はぐくみ通信

第25回 海外での継承日本語は孫には受け継がれない!?|カエデの多言語はぐくみ通信

 心 血を注ぎ子どもに受け継いだ日本語もその次の世代、そうです、あなたの孫には受け継がれないかもしれません。バイリンガル教育の分野では、海外での継承語(親から受け継いだ言葉)は3世代で消滅するという説が有名です。

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海外での日本語は3世代までに消滅!?なぜ?

 移民先進国カナダでは、平均して40%の移民の子ども(第2世代)が親の言葉を継承しますが、孫世代(第3世代)になるとその割合は10%までに落ち込みます。ということは、90%もの孫世代はすでに継承語を失っているということになります。移民の絶対数が小さい日系人は、それ以上に日本語を失っていると思われます。その理由を考察してみました。

●日本語を話すコミュニティーが小さい: 第2次世界大戦前までは日本から海外への移民は盛んでした。しかし、戦争で敵国民となった日系人は、強制収容され、戦後日本に返されたり、集住や新たな移民も禁止されたため、海外日系コミュニティーはほぼ崩壊しました。日系人は差別を恐れ、自分たちの言葉や文化を封印しました。私が知っている戦前移民した日系人の子孫の、3世以降で日本語を話す人はほとんどいません。

 日本語は海外では大変マイナーな言語となっています。世界に日本語話者は1・27億人はいるものの、ほとんどが日本国内のみ。海外では使う場所がないので、移住者の子どもが日本語を学びたいという気持ちが起こりにくいのも頷けます。

●海外の日系人は日系人以外と結婚する: トロントスター紙に、継承語が消滅する最大の原因は結婚によるとあります。結婚相手が違う民族バックグラウンドを持つと、言葉が受け継がれにくくなります。

 2011年のカナダ国勢調査では、79%の日系人が異人種と結婚しており、少数民族グループではずば抜けて異人種間結婚が多いと出ています。海外の日系人コミュニティーは小さいので、異人種間結婚率が高くなるのでしょう。

 また、日本からの新移住者家庭も、子どもの現地語が遅れ成績が下がると困るからと、子どもには現地語のみを使わせる親もたくさんいます。生活の中に継承語がないと、なかなか受け継ぐことはできません。

●日本語は習得が困難: 英語話者にとって日本語は最も遠く、習得の難しい言語です。ご存知のように、漢字の存在が、日本語を難攻不落の要塞にしています。

 日本の子どもは、小学1年から国語を習い始めて、中学卒業でやっと新聞が読めるようになります。ただ、これは日本に住んでいる子どもの話で、海外在住の子どもは日本語学校に通っても15歳で新聞を読めるようにはなりません。早くて20歳、足りなければ20代前半まで学習を続ける必要があります。

●公的な継承語教育機関が少ない: 現カナダ首相ジャスティン・トルドーの父、ピエール・トルドーが首相の座にあった時に提唱された多文化主義法(1988年)により、移民子弟の母語保持のため、継承語プログラムに大きな予算が当てられました。しかし、その熱気が冷めると予算削減により縮小されていきました。

 継承語プログラムから国際語プログラムに名前を変え、日本語教育は細々と現存しています。トロントには、23名の生徒が集まれば、学校に言語教師を1人派遣するという制度があります。高校での正規授業と市民講座プログラムもありますが、大きなエスニックグループの陰に日本語は隠れがち。また、外国人学習者と同じクラスで学ぶため、継承語として学ぶには物足りなさもあります。

 カナダ政府に頼らない日本語学校では、日本政府と日系企業が運営する補習校、日系コミュニティー有志の継承日本語学校があります。ただ、永住の子どもの日本語学習ニーズを満たすのは中々難しいのが現状です。

海外で日本語を教える意味とは

 世代を超えるといずれは消えていく可能性が大きい日本語教育を、海外でする意味とは何でしょうか。

●ルーツを知りアイデンティティを確立する: 人は自分のルーツを知り、アイデンティティを確立することが必要です。国際結婚で生まれたルーツを2つ持つ子どもも同じで、2つあるから1つ無くても良いのではありません。

 言葉と文化は密接に関係しており、言葉を話さないと、それに伴う文化は理解しにくくなります。私は前回日本に里帰りをした時に、子どもたちを歌舞伎や落語に連れて行きました。日本語を話す子どもたちは、私が予想した以上に日本の伝統芸能や話芸を生の日本語で理解し、おおいに楽しむことができました。

●親子の絆が強まる: 子どもが現地語だけを話す場合、または子どもの日本語力が高くなく、同時に親の現地語が流暢でない場合、言葉でのコミュニケーションが主流となる思春期以降に、親子の絆を結びにくくなる可能性があります。親子の会話が毎日同じ生活言語に留まり、子どもの進学や思春期特有の悩み、社会問題等で深い意見交換ができなくなるからです。

 思春期以降の現地語のみを話す子どもは、現地語が話せない親の能力が低いと思うことがあります。親子が話しやすい言葉で、年齢相応の会話をし、絆を深めることは大事です。

●言葉は世界を広げる: マルチリンガルの子どもは共感性が高く、多面的に物事を捉えることができます。私の子どもたちは、世界中のどの人種の人たちも平等に尊敬されなければならないと考え、社会で起きている出来事を公平な目で客観的に判断しようとします。

 たとえ孫に引き継がれず消えていく儚(はかな)いものであっても、親と同じ言葉を話し文化を継承することは、素晴らしい挑戦だと言えるでしょう。

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