カルチャーを通じて先住民の歴史を知ろう!|特集「トロントで 暮らし始めて vol.1」

 政府が先住民のために動かずとも、トロントの住民や団体が各自で「Truth and Reconciliation」へ向けて活動していることはトロントに住むとよくわかる。いくつかカルチャーを通じてその活動に触れることができるので、ここで紹介したいと思う。

本屋や公共図書館で先住民関連の本は一つのジャンルとして扱われている

 大手書店のIndigoから小さな書店まで、キッズコーナーには必ずと言っていいほど“Indigenous”のセクションがある。先住民が書いた著書や先住民の視点を描いた本がたくさん置いてある。子供のうちから彼らの歴史に触れ合うことができるのは特別なことだ。先住民でない子は視野を広げることができる。そして、先住民にとっては、白人が主人公のストーリーとは違って自分が感情を寄せられるキャラクターやストーリーラインに触れることができる。その上、自分らの歴史や文化を誇らしく思える。

 トロント公共図書館では1987年以来Spadina Road BranchとNorth York Central Library(NYCL)で「Native Peoples Collections」という特別なエリアが設置されている。スパダイナでは先住民族に関するフィクションとノンフィクションの小説やCD、DVD、雑誌、新聞、絵本やティーン向けの小説など5千以上ものアイテムが貸し出し可能になっている。ノースヨークには3千500点以上あり、そのほかにもToronto Reference Libraryの4階には40以上もの先住民族の言葉に関する辞書などカセット、CDのコレクションが存在する。大きなキッズコーナーがある分館(Lillian H. Smith Branch, Fort York Branch)などでは先住民に関わる絵本にNative Peoplesと書かれた赤いシールが張ってあり、見つけやすくなっている。

オンタリオ美術館(Art Gallery of Ontario)は先住民アートのコレクションに力を入れている

 Art Gallery of Ontario(以下AGO)ではファースト・ネーションズ、イヌイット、メティスの民族に属するアーティストの作品が所蔵されている。カナダだけにとどまらず、アフリカ、オーストラリア、オセアニアのトーレス諸島などの先住民アートもおよそ千点以上ある。AGOのコレクションの焦点は1948年以降にカナダで作られた現代イヌイット・アートで、今まで集められた5千点の作品のうち2千800点が彫刻、1千300点が版画、700点がドローイング(線画)、そして壁掛けなどがあるという。先住民の洋服や生活用品はRoyal Ontario Museumでガラス越しに見られるが、AGOでは生きたアート作品を間近で感じられる。実際に展示されている作品数は限られているが、場合によっては写真やビデオ・インスタレーションなど、様々な作品を通じて世界の先住民の視点を知ることができる。作品の説明書きに英語とフランス語に加え、アーティストが属する民族の言葉での表記があるのもAGOならではだ。

LGBTコミュニティーにおける先住民への配慮

 カナダでは毎年6月にプライド・マンスが祝われ、トロント市内では今年もたくさんのレインボー・フラッグやサインが見かけられた。日本でも「LGBT」という言葉はすっかり馴染んできたように思えるが、欧米では常にLGBTコミュニティーの名称が見直されている。

 カナダの先住民コミュニティーの間では「2S」を頭につける「2SLGBTQ+」や「2SLGBTQQIA」の呼び名への理解が広まっている。「2SLGBTQQIA」は、Two-Spirit, lesbian, gay, bisexual, transgender, queer, questioning, intersex and asexualの頭文字を取ったもの。「2S」がなぜカナダのLGBTQ+コミュニティーを語る上で大事かというと、先住民が昔からTwo-Spiritという言葉でセクシュアル、ジェンダー、そしてスピリチュアルなアイデンティティを表してきたからだ。Two-Spiritは女性と男性両方の魂が宿る人のことを示し、その人たちはスピリチュアル・リーダーとしてコミュニティのヒーリングや歴史の語り継ぎに貢献してきた。昨年10月、トルドー首相がツイッターで「2SLGBTQQIA+」の名称を使った際、長すぎることに対して「入力ミスなのでは?」とからかう声が上がった。だがそれ以来、先住民の歴史に配慮した名称としてゆっくりと広まり始めている。

 カナダにおける先住民の歴史は暗いかもしれないが、それをポジティブなものに変えられる力が私たちにあるということを「Truth and Reconciliation」は教えてくれる。一人一人が、小さなことでも理解することや配慮することで大きな変化に繋がっていくと信じたい。