世界ニュースメディアの戦い―新聞はいつまで生き残れるのか|世界でエンタメ三昧【第93回】

世界ニュースメディアの戦い―新聞はいつまで生き残れるのか|世界でエンタメ三昧【第93回】

スポーツ賭博を超える「ドリームファンタジースポーツ」というビジネス

 スポーツに本来「賭博」はご法度です。大金がかかる賭博が関与すると、純粋に技の競い合いであるスポーツで、裏側で選手が操作する〝八百長〟が発生する事態にもなります。

 Netflixでも『スポーツ界の闇』が特集されていますが、栄光の大学バスケでNBA入りを嘱望されていた選手が、(数億円、数十億円というサラリーが期待できるのに)たかだか大学時代の数百万円の小金欲しさに八百長をしてしまいます。

 北米のスポーツ賭博の歴史は長いです。それこそ最初に競馬が米国で成立したのが1665年、欧州までいれれば12世紀、実はそのころから合法化されていない中でもスポーツ賭博は常に行われてきました。スポーツの歴史とともに賭博がついてきているともいえます。

 長く違法の時代があっても、やはりアンダーグラウンドでスキャンダルまみれだったスポーツ賭博は、1970年代後半に全米ギャンブル全国協議会によって「ギャンブルは避けられない」と合法化されていきます。正式には1992年ですが、この後のスポーツ賭博産業の成長はまさにスポーツ団体自体の成長と軌を一つにしています。

 日本もまた例外ではありません。野球や大相撲にとって「八百長」は常についてまわった問題で、1963年石原慎太郎が大鵬-柏戸戦を八百長だと告発したり、1980年に四季の花が『週刊ポスト』で自身の八百長を告発。1991年には千代の富士の八百長が朝登によって告発されたときは前人未到の1000勝記録の横綱が、と業界に激震が走り、2011年には力士たちが野球賭博で差し押さえられた携帯から八百長の証拠が露見し、史上はじめて協会が八百長の存在を認めるといった事件にまで発展します。これほどまでにスポーツにおいては「勝利」が深刻な問題であり、それを対価をもって操作するに値するほど利権が絡むものになってきている、とも言えます。

 そんな中、「ドリームファンタジースポーツ(以後DFS)」というジャンルがあります。米国では1960年代から存在し、こちらはスポーツ賭博が起こりにくい構造になっております。というのも実際の試合に賭け金を載せるわけではないのです。Stats(数字)で遊ぶゲーム、という感じで全選手が給与とパラメーターごとにラインナップされ、自由に組み合わせて「自分のドリームチーム」を選び、いずれかの〝プレーヤーたちが賭け金を払うリーグ〟にベットします。あとは実際にリアルの選手が実際の試合で活躍した点数が合計されて積みあがっていき、その〝架空の点数競争〟のなかで「自分のドリームチーム」が優勝すると、そのリーグで他プレーヤーたちが出した賭け金のなかからPrizeとして賞金がもらえる、というものです。スポーツ賭博の歴史が長い米国ならではの工夫がされており、この競争率などが的確に設定されております。

このような形で選手ごとの能力や給与によって、自分の(ゲーム内での)予算配分のなかで選手たちを選んで「ドリームチーム」を作ります
このような形で選手ごとの能力や給与によって、自分の(ゲーム内での)予算配分のなかで選手たちを選んで「ドリームチーム」を作ります

 賭博の違法性は「スキルに関係なく、単なる運で、少額が莫大なリターンになるからみんなが夢中になってお金を突っ込む」というもの。なので賭博とはいえ「判断にスキルを要するものは違法ではない」とみなされます。ただこの「スキル」が非常にグレイに設定されているからこそ、結局玉虫色で何が賭博かが誰も判断つかない状況です。DFSは一応データの読み込みと確率計算という「スキルを要するもの」として、合法賭博としている州も多いです。

米国ファンタジースポーツ2兆円市場のカギを握る巨大オンライン企業DraftKings

 北米におけるDFSビジネス企業はDraftKings(2012年設立)とFanDuel(2009年設立)で、この2社だけで市場の90%シェアとなっています(2016年にこの2社の合併が告知されましたが、あまりの高い市場シェアに独禁法に抵触してNGとなっています)。DraftKingsは2020年春にナスダック上場していますので、ある程度その実態も明らかにされています。

 もちろん実際の試合勝敗に関わらないとはいっても、賭けは賭け。規制対象にはなりますし、現在も米国50州どこでも合法化している、というわけではありません。ただこの2社がどんどん巨大化しており、DraftKingsはすでに200億ドルもの時価総額、かのNBAの伝説プレーヤーであるマイケル・ジョーダンも出資者&顧問として名前を連ねています。2014年にNHL、15年にMLB、そして19年には北米足代のNFLとパートナーシップを提携しており、「公的に」選手のDFSをライセンス事業として展開しています。(リーグはリーグでDFSやスポーツ賭博で1%をリーグに収めるIntegrity Feeを主張しており、新たな収益源の確保手段として、その市場展開には寛容な姿勢を示しています)。

 まだ設立10年足らずの2大DFS企業の競争は、性急かつ熾烈なものでした。2012年から2年間にわたり2社から32百万ドルを集めたDraftKingsはそれを原資に競合を買収していき、2015年にはFOX、NHL、MLSから3億ドルの出資を実現します(FOXをその後買収したディズニーは、いまはDraftKingsの株主です!)。2018年には英国大手のPaddy Powerもその手中に収めました。日本の日興アセットマネジメントや三井住友トラスト、ほかに大手スポーツリーグも軒並み株主となっており、株主ラインナップをみるだけでも「カジノ」「ギャンブル」につきまといがちの胡散臭さは払拭されます。

 DraftKingsの対象はDFSビジネスに留まりません。実際の試合に賭ける「SportsBettingのブックメーカー事業」にも着手しており、ほかにも「オンラインカジノ事業」や「広告事業」、「BtoB事業(カジノプラットフォームのソフトウェア提供)」とほぼポートフォリオはリアルなハリウッドカジノ企業と変わらないところにきています。

 一点問題視されているのはDraftKingsの財務です。赤字幅の増大は図1にみるようにとどまるところを知りません(これはツイッターなど集客マーケティングに多額を要する米国テック系あるあるですが)。2020年はまだ売上6億ドルの状態で、5億ドルをマーケティングコストに突っ込んでいます(競合のFunDuelは13・6億ドル、BetMGMは7.3億ドルを2020年に宣伝費に投下しているので、競合も似たような財務状況かと思われます)。

 いまこの〝ゴールドラッシュ〟に市場を広げなければという苛烈な札束たたき合いが行われており、ユーザーはほぼ無料で初期の賭け金額を得られ、とにかく「プレイを始めること」「続けること」というファンタジースポーツ祭りの状態になっており、それにより5千万以上のユーザーがこの競技を遊んでいます。赤字幅は毎年広がっており、四半期でも2023年の第4四半期に黒転すると言われています。投資家もかなり懐疑的な目線になってきていますが…それでも時価総額は2兆円超え!

日本でも始まるDFS事業、オンライン&DFSの賭博市場はすでに本場カジノ越え

 日本でもプロ野球のファンタジースポーツを21年にソーシャルゲーム運営のマイネットが開始しました(https://npblive.jp/)。Mixiが競輪でやっている「ティップスター」もDFSではないけれど、ゲーム内の無料メダルで軽く賭けてみてゲーム内通貨で増やしていくスポーツベッティング事業に着手しています。千葉ジェッツやFC東京など、スポーツ団体運営の収益も入っていますが、Mixiのスポーツ事業はすでに100億円超。サイバーエージェントもAbemaTVで競輪チャンネルとともにWinticketという投票サイトを運営し、すでに年間250億(FY20)→1300億(FY21)→2000億超予想(FY22)というサイズで取り扱い高を伸ばしています。いずれも現金で「ゲーム内ポイント」を購入し、それでベッティングを行いますが、払戻金は現金にもできるので、いよいよ公的なスポーツベッティングがデジタルで利便性ある形で、上場企業によって担われるという段階にき始めております。

 以前カジノ特集をしたことがあります。

 まだコロナ前、世界12兆円のカジノ市場は中国マカオ、米国、シンガポールを3大集積地として、特にアジアで2010年代に急激に成長してきた市場でした。このカジノはコロナで大ダメージを食らっていますが、その分、市場はオンライン化に急激にスライドしています。米国では2020年にオンラインカジノ市場で210億ドル(違法のものも含めると400億ドル)、DFS市場で180億ドルとなっており、合計するとすでにピーク時のリアルカジノ市場を越えています。

 日本はスポーツ賭博に対しては保守的で、まだDFS市場も含めてまだ一般化からはほど遠い状況です(逆にいうとパチンコ・パチスロと競馬で、他国を凌駕するようなギャンブル市場が長い歴史のなかで浸透しているので、それが新興のスポーツベッティングやDFSを阻んでいるともいえるでしょう)。ただ2027年の大阪IRカジノ構想が実現するとともに、この領域の議論もまた再燃してくることは必然です。まだ法制化の議論が取りざたされるなかでDraftKingsのような浸透をみせてしまった米国では「どうせ規制してもアングラで潜って存続するだけ。ならばグレーでもDFS市場を一般化するところまで浸透させてしまえばあとから法律が追い付いてくる」とばかりのスタンスもまた一つの実践的な解答といえるのかもしれません。

 実は野球やサッカー、総合格闘技など、日本の試合もすでに海外のスポーツベッティングのサイトの「材料」になっており、賭けは行われているのです。Jリーグの放映権を獲得したDAZNもまた有名な英国のブックメーカーですが、世界各国のブックメーカーは世界中の「賭けの材料になる試合」を集めており(勝手に賭けられているケースすらあります!)、よくもこんな小国の誰もみていないようなスポーツを、といったところでも賭けを行います。基本的には確率論のなかでの遊びなので、材料を問わないといったこともあるのでしょう。前述したように「賭けは危ない」「全部違法で」と臭いものにふたを、としてしまっても、スポーツ賭博は勝手に自然発生しているようなもの。そこに対して、きちんと網をかけにいくのか、はたまた放置してしまうのか。日本のスタンスが問われる現在です。