世界映画産業:中国の覇権に日本アニメはどう取り組むか|世界でエンタメ三昧【第82回】

世界映画産業:中国の覇権に日本アニメはどう取り組むか|世界でエンタメ三昧【第82回】

コロナ下で世界一になった日本アニメと中国コメディ

 2020年は映画業界にとって受難の年でした。春からの映画はコロナ影響で完全に上映停止、多くの映画館が1年以上にわたっての閉鎖となり、米中日の大手映画メーカー、映画館運営会社は数千億円規模の赤字に苦しみました。そうした中で大きな切り替わりの年でもありました。中国の映画市場が(昨対比6割減ですが)初めて米国映画市場を抜いて世界一となったのです。

 中国の映画市場がスゴイという点はすでに周知の事実でしょう。2015年『STAND BY ME ドラえもん』の約80億円から始まり、2016年『君の名は。』で過去最高の80億円超の記録的数字、2018年『となりのトトロ』で約26億円を記録しつつ、2019年の『千と千尋の神隠し』も約75億円。世界最大の映画史上だった米国での日本映画の数字は、歴代1位が20年以上前の1998年『Pokemon: The first Movie』で約90億円、2位以下はその半分以下。つまり20年前のポケモンクラスの売上が、ここ5年は毎年のように中国映画市場で生まれているのです。文化の違いのすりあわせ(ローカライズ)が難しかった米国映画市場に比べて、中国市場がいかに日本コンテンツに大事になっているかが分かります。

 驚くべくはこうした日本映画の中国市場での成功は、中国からみればまだまだ、というレベルだということ。本丸の中国国産映画は記録的数字を絶賛更新中で、2017年アクション映画『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』は観客動員で1.6億人、約1千億円で歴代最高売上。マーベルシリーズなどハリウッドが独占する世界トップ100の歴代売上作品のなかに、唯一のアジア作品としてランクインしています(つまりいまだに映画史のトップ99はほぼ米国一強状態、ということでもあります!)。約2019年アニメ『Ne Zha(哪吒)』が50億元(約766億円)、実は2021年のコロナ下でも中国コメディ映画の『你好、李焕英(Hi, Mom)』が53・6億元(約900億円)と、全世界でも年間1位に輝きました(ちなみに同じコロナで全滅状態だった2020年は『鬼滅の刃 無限列車編』が約500億円で実は世界一の売上です!)。

 この2年間は映画業界が激震期のなかで、日本のアニメと中国のコメディが世界一となり、時代の切り替わりを象徴する事件でもありました。

いまだ市場の1割未満、チャイナ・ドリームを目指す人々

 作品も世界一なら、市場規模でも世界一。2020年は中国が米国を抜いて、興行収入では世界トップに輝きます。ロックダウンで映画市場は昨対比で全世界的に8割減。米国も同様に8割減のなか、比較的被害の少なかった中国が6割減、日本はおそらく最も軽症だった部類で4割減に落ち着いています。そうなると、もともと1兆円市場で競っていた中国と米国が逆転するところとなり、昨年は中国が約3千億円、米国が2千億円、日本が1.4千億円となりました。日本はなんとこのタイミングで日本市場最高興収の作品が出来上がり、その鬼滅が1本で市場の三分の一を寡占するという、今まで見たことのないような寡占度合いを見せています。

 そもそも中国の映画市場、10年前は日本と同じ2千億円規模でした。なんなら2007年は四分の一の5百億円で規模でしかなかった。それが2011年に並ばれ、2014年には2倍になり、2018年には4倍の8千億になった。米国映画市場からみても、2007年に1割未満だったのに、2017年には四分の三の規模、そして2020年にはついに追い越された、という状況です。スクリーン数でいっても中国はすでに8万弱、米国の4万は2015年には抜き去り倍のスペース量となっており、日本の3.5千など2007年に追い越してから、もはや比べ物にならない差となっています。中国の映画産業の振興は、この爆速での映画館投資に支えられており、すでに10万スクリーンを超えることも確実な計画がなされています。

 米国と違って、日本のドラマやアニメを視聴してきた中国人ユーザーが、その自身の成長とともに日本コンテンツを普通に味わう時代になりました。日本から見ても隣にこんな豊満な市場があるのに、そこをみずにはやっていけません。米国ハリウッドも「made for China」で中国市場一択で急激なシフトをみせており、中国の人気俳優のアサイン、中国だけの先行上映、中国の検閲チェックを見越した仕組の導入…などなど。第77回でも図示したように2019年の『アベンジャーズ/エンドゲーム』では中国だけで400億円超で全世界の2割以上の売上となっております。そうした中で日本映画作品は中国でどのような評価を得ているのでしょうか。

 前述のジブリシリーズが目下どんどん輸出されている中、他の作品でも驚くような事例が出てきています。2020年のデジモンアドベンチャーは国内では2億円でしたが、中国ではなんと9倍の19億円!2019年の夏目友人帳も2018年のトトロも、日本での興行収入の2倍以上が中国市場で売れているのです。ほかの日本トップ作品も、アベンジャーズよろしく国内興行収入の2〜3割を中国で稼げるようになってきております。アニメ中心ではありますが、『祈りの幕が下りる時』や『菊次郎の夏』など実写・ドラマ系でもそれなりの数字が出る点では米国映画市場よりも日本にとってはポテンシャルが大きいと言えるでしょう。

 そもそも中国で劇場公開された日本映画はそれほど多くありません。2000年代は年間1〜2本で最多の2011年でも4本程度。その後は0本という時代も続き、2015年の2本のうちの1つが前述の『STAND BY ME ドラえもん』で、そこから2016年以降に年10本以上が急激に中国劇場公開されるようになってきました。2019年には24本と、ウェーブのような状況です。ただ毎年邦画500本以上が公開される日本映画産業にとって、そうはいっても中国展開できているタイトルは1割にも満たない状態です。一部の成功例が際立った中で、検閲など規制対象でもある産業なので、一筋縄にはいきません…

デフレ大国日本はコスパで勝負

 もはや米中の二大巨頭対決になっているのは、もはやGDPや経済規模のみならず、映画コンテンツも同様だということが一目瞭然の結果です。では作り手としてはどうなのでしょうか?日本の1本あたりの映画制作費は10億円にも満たない状況です(本当の平均をとると2〜3億円まで下がるかも…)。図3で1タイトルあたりの製作費でみれば、中国はすでに日本の6倍以上の60億円と米国以上の水準になっています。インドのみ本数は例外としても(年2千本で全世界の3割)、平均制作費ですら日本の3倍の30億円強という状況です。日本は世界の映画市場3位で、過去40年近くダントツの米国にあわせて安定的な映画市場を形成してきましたが、世界的にみてもこれほど安い制作費でこの市場規模を維持しているのは逆にスゴイです。この低価格で年600本も映画製作がされているのです。

 アニメの映画製作が、テレビアニメからの転用で比較的安く作ってあることも一因といえるかもしれません。ただこの平均製作予算の国別比較は、映画のみならず、ゲームでも音楽でも、また出版でも同じようなポジショニングになります。日本は属人性高く、少人数チームでの製作なので、派手さはないにしても「とてもコスパのよいコンテンツ製作大国」という点では異論の余地がないでしょう。

 米中のはざまで日本は日本の独自の映画市場、映画製作産業が形成されています。韓国音楽産業のように、ピリリと辛い、スパイシーなポジショニングをとることが期待されています。さらに、チャンスはもはや「映画上映」ではなく「映画配信」へと視点を移すべきでしょう。日本でも映画上映産業2千億円に対して、動画配信市場規模はすでに4千億円近いです。Bilibiliは日本アニメを年100本以上も配信していますし、こうした「配信を通じての映像展開」では1本30分なのか2時間なのか尺によらず、ストーリーテリングのコンテンツとしてテレビ・映画のメディア枠をとりはらった勝負の時がはじまっております。