第3回 サル痘(MPOX)について|カナダで暮らす日本人のための医療お役立ちコラム

カナダ邦人医療支援ネットワーク「JAMSNETカナダ」提供

カナダの医療システム101

 はじめまして、カナダで看護師をしている柴田のり子です。現在は公衆衛生課で予防接種業務についています。ジャムズネットカナダ(カナダ邦人医療支援ネットワーク)のメンバーとしても活動していることから、今回サル痘(MPOX)について書いてほしいというお話を受けました。そこで今回はサル痘についての概要、そしてカナダでのサル痘予防接種のお話をしたいと思います。

サル痘とは?

 サル痘とはサル痘ウイルスが原因の感染症で発熱、悪寒、リンパ腺の腫れ、または頭痛を引き起こします。一番特徴のある症状としてはポツポツとした赤い水疱状の発疹でしょう。サル痘ウイルスはオルソポックスウイルス科に属し天然痘と同じ種類になります。室町時代や江戸時代に蔓延し多くの命を奪った天然痘に比べると、サル痘は感染率や死亡率は10分の1ぐらいと言われていますが、それでも小さな子供や免疫力が低下している成人がかかると命取りになります。妊婦の死産、流産も多く報告されている感染症です。

 サル痘の感染が今年の5月からいろいろな国で報告されるようになりカナダにも上陸したという情報が入ってすぐ、各州の公衆衛生課は予防注射を開始しました。サル痘と呼ばれるだけあってこれは動物から人間に感染することが常だったようですが、実際は人から人への感染はよくあることなのです。特に体液(唾液、精液、血液など)があまり空気に触れることなく他の人の体内に入ると感染力が高まり、平均8.5日の潜伏期間を経て症状が現れるようです。発病してしまったら完治まで2〜4週間ぐらいかかるようなので、新型コロナウイルス感染症とはまた違った大変さがあります。

誰に感染する?もしかしてと思ったら?

 サル痘には老若男女関係なく感染するのですが、現時点では圧倒的に体同士の密な接触、特に男性同士で性的接触を持つ人たちの間で多く感染が見られることもあり、主な予防接種対象者になります。また、感染者との密な接触があった人も予防接種の対象になります。

 カナダに住んでいて、もしかして感染者と接触したかもしれないと思った人は21日間の健康観察と予防接種の可能性も含め、公衆衛生課への連絡と検査の予約を推奨しています。健康観察中に症状が出た場合には直ちに隔離をしなければいけません。

 ウォークインクリニックか公衆衛生課ウェブサイトでトロント市内、近郊に記載されている16箇所のうちいずれかのSexual Health Clinicsに事前連絡した後、検査をしてもらってください。検査結果が陽性の場合は公衆衛生課から連絡が来ます。

 隔離期間は発疹でできたかさぶたが剥がれ落ち中から新しい皮膚が再生されるまで続きます。その間は公共施設の利用を避ける他、できるだけ肌の露出を抑え、マスクを着用しなければなりません。家族との接触も最小限にし、タオルの共有も避けます。これは新型コロナウイルス感染症の隔離よりかなり長い期間になりますね。また、動物への感染もあるのでその間ペットに触るのもだめです!辛い!

予防注射

 公衆衛生課では対象者にサル痘の予防接種を行っています。新型コロナウイルスワクチンのモデルナやファイザーのようにに有名ではありませんがイムバミューン(Imvamune)というワクチンを使用しています。昔のワクチンに比べると副反応が少ないようです。オルソポックスウイルス用に作られているので天然痘やサル痘に予防効果があります。予防接種クリニックは常設しておりませんが、対象者へのアクセスがよくそして対象者が安心して足を運べる場所が選ばれています。予防接種の予約は公衆衛生課のウェブサイトから出来ます。予防接種を受けてから感染した人は症状が非常に軽く、水疱が2個程度で済んだという人もいます。

 現在世界で3万人以上のサル痘感染が確認されている中、カナダの感染者数は10月時点で1400人、その殆どがケベック州とオンタリオ州に住んでいる人です。予防接種開始当初に比べると現在の感染者数はかなり落ち着いてきているようで、これは予防接種による効果ではないかと思われます。今のところオンタリオ州でのサル痘による死亡者は確認されていません。

減少傾向

 日本は島国だからでしょうか、サル痘感染者数はとても少ないようですね。新しくカナダに来た人にとってはカナダでのサル痘感染者数は多いように思われるかもしれませんが、オンタリオ州では10月30日を最後に新たなサル痘感染者報告はないようなのでこのまま落ち着いていくことを願っています。

 今回はサル痘という病気についてどんな症状が出るか、感染ルート、療養期間、公衆衛生課の対応、そして現在の感染状況を大まかにまとめてみました。もしこれを読んだ人で自分はサル痘予防接種対象者に入るのではと思われる方はぜひお住まいの地域の公衆衛生課に連絡してみてください。ジャムズネットカナダでも相談可能ですのでお気軽にご連絡ください。

【筆者紹介】 柴田のり子 PHN RN BScN

 名古屋市出身の看護師(オンタリオ州で登録)カナダのオタワ在住24年。看護師歴10年。現在はオタワ公衆衛生課勤務。カナダ人の夫、二人の子供、猫1匹と柴犬1匹と暮らしていて、夏はサッカーママ、冬はホッケーママをここ10年くらいやっています。私自身は空手と読書と編み物が趣味で夢はナースを人生最後の日まで続けたい!空手の稽古をしに沖縄に行きたい!NY Timesベストセラーを全部読みたい!そしてオタワに日本人ナースが増えてほしい!といつも思っています。