「迷ったら楽しい方へ。失敗しても納得=できるならOK!」特殊メイクアップアーティストもりみゆきさん(後編)|Hiroの部屋

トロントを拠点に北米の映画・テレビ・ファッション業界の制作現場で活躍する日本人女性

ヒロさん(左)とみゆきさん(右)
ヒロさん(左)とみゆきさん(右)

ネットフリックスやアマゾンプライムなど、数多くのドラマや映画で特殊メイクアップアーティストとして活躍しているもりみゆきさん。連載最終回となる今回は、社会を大きな影響を与えたコロナ禍での働き方、次のステップ、そして彼女にとってのトロントという街について迫っていきたい。学生時代からの夢を叶え、世界を舞台に活躍してもなお、高い目標に向かい走り続ける彼女のストイックさに、多くの人が勇気づけられるだろう。

キャストと1番近い距離で接するからこその苦難

ヒロ: コロナ禍での仕事環境は大きな変化があったと思います。

みゆき: 撮影態勢がまるっきり変わりましたね。業界全体的に初めてのことだったので、混乱もしました。撮影にはCOVIDチームと呼ばれるスタッフたちが感染対策の指導に立ち会っています。また、消毒しやすいように全てのものがプラスチック製になったり、一回使い捨てできる物を使うことが増えました。私たちメイクアップアーティストは、「RED ZONE」と呼ばれる、キャストと一番近い距離で仕事をするので、週3回PCR検査、必要であればプラス毎日ラピッドテストをShowが終わるまで受け続けるという状況です。

 また、撮影中だったドラマや、コロナ前後に撮影開始予定だったドラマや映画は、一時中止されたので、撮影再開できる時期が来た時点で、キャストのスケジュールが抑えられなくなったり、コロナ対策への経費が膨大になったりして、全ての予定が狂ってしまいました。

トロントは「仕事の街」

 
ヒロ: 僕は最初、トロントという名前さえ知らなかったのですがその後、少しづつこの街と人々に魅了され、今ではトロント大好き人間です(笑)。ロサンゼルスとバンクーバーなど西海岸でも働き生活した経験を持つみゆきさんにとって、トロントはどんな街ですか。

みゆき: 正直に言うと、仕事のために来て、仕事のために住んでいるので、「仕事の街」という感じです。近年トロントではネットフリックスのスタジオができるなど都市として映画・ドラマ産業をはじめとしたエンターテイメントへの投資が盛んで、関係者もトロントに移動するなど勢いがすごかったので、私も2014年にトロントに来ました。幸運なことにトロントにはスタジオが沢山あって、今もなお増え続けているので、これからもっと撮影場所として盛り上がっていくのではないかと思います。

 

一緒に仕事をしたい監督・キャストがモチベーション

 

ヒロ: もし特殊メイクアップアーティストになっていなかったら、何をされていたと思いますか。

みゆき: まさにその話は、最近同僚のみんなとしたところです。「本当はロックスターになりたかったんだよね」という同僚もいたり、みんなそれぞれ〝もしも〟の夢があったのですが、「みゆきは?」と聞かれたときに、「私の夢は叶っているな」と思ったんです。学生時代からの夢をいま仕事にできているし、ずっと憧れだったハリウッド映画でも仕事ができているので、そういった意味でその質問への答えは見つかりませんでした。

ヒロ: 自分が本当にやりたいことを叶えているからこそ、この質問に答えられないというのは素敵ですね。

みゆき: 正直、ずっと茨の道で、というか道すらないジャングルをかき分けてきたので、「もうここまでかな」と思うことは何度もあったんです。その度に、この世界に戻るように引っ張られるような出来事があったり、「まだあの人と仕事をしていない・あの人の作品に参加したい」と思う監督やキャストがいて、それがこの仕事を続けるモチベーションになっています。

▲「Snip Style」 April 2017
 Special Makeup Effects: もり みゆき
 Hair & Straight Makeup: NaTsuKo (svk)
 Photo: Asako Nanami
 Model: 葵(SOS)
▲「Snip Style」 April 2017
 Special Makeup Effects: もり みゆき
 Hair & Straight Makeup: NaTsuKo (svk)
 Photo: Asako Nanami
 Model: 葵(SOS)
迷ったら楽しい方へ。失敗しても納得=できるならOK!

 

みゆき: とはいえ、そんなに遠い未来のことまで考えているわけではないし、自分がその時やりたいと思ったことを自由にしていたいので、3年後トロントにいるのか、いないのかも分かりません。それくらいオープンにしておいて、迷ったら楽しい方を選ぶようにしています。自分が考えて選んでるので、たとえそれが周りには失敗に見えても、自分は納得していますし、それでいいと思っています。

 ただ、最終的には「自己表現をするアーティスト」となってから人生を終えたいと思っています。

ヒロ: 自分の心が躍る方を選ぶからこそ、己の背中を押すように頑張れるし、失敗しても納得できる。簡単ではないかもしれません。が、一度きりの人生を後悔するより、僕は好きですね。海外留学等、新しいことへの挑戦に躊躇する方々の心に届く事を切に願います。

 そして、夢が叶った今も現状に満足せず、次の目標へ向けてご活躍し続けるみゆきさんの存在が素晴らしくて、この連載の読者も勇気づけられると思います。今後も、特殊メイクアップアーティストとしてご活躍するみゆきさんに注目しつつ、「自己表現をするアーテイスト」としてのみゆきさんも見れる日が楽しみですね。

(聞き手・文章構成TORJA編集部)

もりみゆきさん

 神奈川県出身。日本、アフリカ、カナダ、アメリカの映画・テレビ・ファッション業界で活動する特殊メイクアップアーティスト。ロサンゼルスでメイクアップスクールを卒業後、特殊メイクアップ工房Chiodo Brothers Productions Incにて、キャリアを開始。2008年カナダ移住。Schminken Studio、Mindwarp production Incでの仕事を経て、現在はトロントを拠点に多くの映画・ドラマの制作現場で活動中。

 Creditは、『Super Natural』『Jigsaw/Saw8: Legacy』、Amazon Prime『The Boys S2』、メル・ギブソン主演『Fatman』、ダイアン・レイン主演『Y the Last Man』、2022年秋Netflix配信予定の『Glnny&Georgla S2』など。