毎年、日本茶祭りを彩るオリジナルのトートバッグ。デザインを手掛けるのは、ニューヨークを拠点に建築家・デザイナーとして活動する前田夏来さんとコリン・ガードナーさん夫妻だ。
もとになっているのは、夏来さんの母である書家・前田典子さんの「書」。親子と夫婦によるコラボレーションから、毎年新たなデザインが生まれている。
ジャンルを越えてものづくりに携わる二人に、今年のデザインに込めた思いや制作の舞台裏、そして多文化都市から見える日本文化について話を聞いた。
ーーお二人のこれまでの歩みと、現在の活動について教えてください。
私たちはデザイナー、そして建築家として、何かをつくることが大好きです。ミュージアムのプロジェクトからグラフィックデザイン、アパートメントのリノベーション、おもちゃのデザインまで、本当にさまざまな仕事に携わっています。
二人でよく話しているのは、私たちが一番得意なのは「夢を形にすること」なのかもしれない、ということです。
私たちの仕事では、物事を批判的かつ戦略的に考える一方で、まだぼんやりとしたアイデアを具体的な形にしていくために、自由な発想も必要です。その両方を行き来しながら、一つのものをつくり上げていくところに面白さを感じています。
私たちはいつも、日常の小さな瞬間から大きな出来事まで、心を動かされるものを探しています。そうした経験から考え、アイデアを形にできることが、私たちにとってこの仕事の大きな魅力なのだと思います。
ニューヨークは、そんな私たちにとって最高の遊び場です。心を奪われるような瞬間が、尽きることなく存在しています。
ーー日本茶祭りに関わるようになったきっかけと、毎年デザインを手掛ける理由を教えてください。
最初にトートバッグのデザインで声をかけてくれたのは、夏来の母で、書家の前田典子さんでした。典子さんと日本茶祭りを主催する桃さんの間で、「書」をトートバッグのデザインにどう取り入れるかという話があり、デザイナーと一緒につくりたいと考えていたそうです。
私たちはそれ以前にも、建築や書籍、展覧会のデザインで典子さんと仕事をしていたので、そのコラボレーションを日本茶祭りにも広げられることを楽しみにしていました。
このイベントの好きなところは、お茶に深い情熱を持つ人たちが集まり、その一人ひとりによって祭りがつくられていることです。とてもシンプルですが、だからこそ生き生きとしていて、飾らない本物らしさがあるのだと思います。
私たちはたくさんのトートバッグを持っていますが、一つひとつが特定の瞬間や思い出と結びついています。食への考え方を変えてくれたレストラン、人生の感じ方に影響を与えたコンサート、友人が立ち上げた会社。そうしたバッグを普段の生活で使っていると、それぞれが自分たちに喜びを与えてくれたものを記録する「小さな歴史」のような存在になっていきます。
日本茶祭りのトートバッグも、そんな存在にしたいと思いました。最初のバッグを「お茶の緑」にしたのも、祭りに集まる人たちの熱意や高揚感を、鮮やかに表現したかったからです。
毎年、この祭りを祝う新しいデザインを考えながら、祭りの物語や変化を伝える一連のアイテムにしていきたいと思っています。毎年足を運んでくれる人にとって、その年の日本茶祭りの熱気や思い出を残すトートバッグになれば嬉しいです。
ーー前田典子さんの「書」にどのような魅力を感じ、それを現代のデザインにどう生かしているのでしょうか?
「書」を見て、最初に強く惹かれたことの一つが、その美しい抽象性と、空間を構成する感覚でした。
筆の一つひとつの動きが紙の上の空間を占める姿には、揺るぎない意志のようなものがあります。同時に、筆跡によって生まれる輪郭には無限ともいえる変化があり、余白にも明確な存在感を与えています。
もちろん、これはデザイナー、そして建築家としての私たちの目を通して作品を見た時の印象です。ただ、そうした特徴があるからこそ、典子さんの筆跡はグラフィックデザインの中に取り入れた時にも、とても効果的に機能するのだと思います。
ーー今年のトートバッグには、どのようなコンセプトや思いを込めたのでしょうか?
今年のバッグは、私たち自身、本当に気に入っています。今回も「円相」をこれまでとは違った視点から捉え、新鮮な驚きを感じてもらえるようなデザインを目指しました。
今年はニューヨークで、母とリノベーションのプロジェクトに取り組み、その中でさまざまな「書」のアイデアを試す機会がありました。今回のトートバッグには、そこで蓄積した幅広い筆跡の「ライブラリー」から、さまざまな要素を取り入れています。
デザインの中心にあるのは、異なる要素が一つの場所に集まり、同じ瞬間を共有するという感覚です。それは、お茶への情熱を持つさまざまな人が集まる、日本茶祭りそのものへのオマージュでもあります。
母の「書」には、あえて白いインクを使いました。色や伝統的な墨の黒を取り除くことで、トートバッグそのものの素材感や微妙な色合いにも目を向けてもらいたかったからです。書だけを際立たせるのではなく、その周囲の要素にも自然と視線が広がる、繊細なデザインになったと思います。
ーーご夫婦で一つのデザインをつくる時、どのようにアイデアを出し合い、形にしていくのでしょうか?
私たちには、「いつもこうする」という決まった進め方はありません。デザインには、自由に遊ぶような感覚で向き合っています。
多くの場合、まずはまだ形になっていない「感覚」から始まります。建築であれば、クライアントが思い描いている「夢」のようなものです。そこから、それをどう現実のものにできるのか、それぞれがアイデアを出し、まずは粗削りでも形にしてみます。
その後、お互いのデザインを交換し、相手の案の中で面白いと思った部分を、自分なりにもう一度つくってみます。相手のアイデアを自分なりに「翻訳」することで、最初につくった本人も気づかなかった魅力が見えてくることがあります。
そこから二人のアイデアが混ざり合い、最初には想像していなかった方向へデザインが動き始めます。そうやって、最初は曖昧だった「夢」が、少しずつ具体的な形になっていくのです。
ーー多文化的な都市で暮らす中で、日本文化の受け止められ方や、近年の変化についてどのように感じていますか?
それぞれの都市には、違った個性があります。私たちはニューヨークで過ごす時間が長いので、身近な例を挙げてみます。
最近、「Smithereens」というレストランを見つけました。ニューイングランド出身のシェフが、ニューイングランドらしい料理をつくっているのですが、食材や調理法には日本の食文化から学んだものが自然に取り入れられています。
私たちが面白いと感じるのは、ある文化から生まれた知識や技術が別の場所へ渡り、まったく異なる文化の中に自然に溶け込んでいくことです。デジタルで世界がつながった今は、誰もがさまざまな国の暮らし方や文化に触れられるようになり、遠く離れた場所同士でも影響を与え合っています。
ニューヨークやトロントのような多文化都市の魅力は、そうしたつながりがオンラインだけで終わらず、実際の場所で交わることだと思います。異なる文化が出会い、影響し合うことで、そこからまた新しいものが生まれていく。私たちは、そんなところに魅力を感じています。
ーー夏来さんのJapanese Canadianとしてのバックグラウンドは、建築やデザインにどのような影響を与えていますか?
この問いは、私自身、ずっと興味を持ち続けてきたテーマです。ただ、「日本人であること」「カナダ人であること」「アメリカ人であること」が自分にとって何を意味し、それがデザインにどう表れているのかと聞かれると、今でもはっきりとした答えはありません。
幼い頃に日本からカナダへ移り、その後、建築と出会いました。ヘルシンキ、パリ、バルセロナ、ボストン、サンフランシスコで学び、暮らし、仕事をしながら、最終的にニューヨークに拠点を置きました。さまざまな場所や文化の間を行き来してきたことで、常に新しいものから影響を受けてきました。それは私にとって、とても自由なことでもあります。
一つひとつの経験が、私の世界の見方やデザインを形づくっています。子どもの頃に母が読んでくれた日本の本の一節かもしれないし、フィンランドで木材について学んだ冬の経験かもしれない。あるいは、つい先週聴いたイギリス人シンガーの歌声かもしれません。
そうした一見まったく違う経験が、予想もしなかった形で一つになる瞬間が一番面白いんです。私たちは皆、たくさんの小さな経験や出会いが混ざり合ってできているのだと思います。だから私自身も、「日本らしさ」だけにとらわれるのではなく、その時に最も自然で正直だと思えるものを、自由に表現していきたいと思っています。
ーー今年のトートバッグを通して、どんなことを感じてもらいたいですか?
今年のバッグを手にした時、皆さんが笑顔になってくれたら嬉しいです!このバッグは、関わった皆さんによる素晴らしいコラボレーションから生まれました。今年のバッグには、日本茶祭りに集まる、さまざまな人たちの情熱が楽しげに踊るような姿が表れていると思っています。
COLLIN GARDNER(コリン・ガードナー)
ウォータールーで学士課程を修了。ハーバードで大学院課程を修了。トロント、バンクーバー、ロンドン、ボストンのオフィスで勤務した後、ニューヨークへ移住。NATSUKI MAEDA(前田夏来)
ウォータールーで学士課程を修了。MITで大学院課程を修了。イエローナイフ、パリ、バルセロナ、サンフランシスコのオフィスで勤務した後、ニューヨークへ移住。

