カナダ国民・ 在住者が直面する6つの課題|特集「カナダ移住で知った生活デメリット」

カナダ国民・ 在住者が直面する6つの課題|特集「カナダ移住で知った生活デメリット」

TORJAではこれまでトロントとカナダ全土の良いところや住みやすさ、とにかく愛すべきところをたくさん紹介してきた。パンデミック前から増加傾向にあった日本人の海外移住。カナダは在留邦人数の世界5位を誇っている。2019年の統計では海外で暮らす日本人の数は140万人。そのうち永住権取得者は51万人ほど。日本に住みにくさを感じて海外を目指す人が多い中、トロント/カナダでの生活にも実は住みにくい点や日本人の視点から理解しにくい点があることをここでじっくり紹介したい。

課題1 カナダ中での住宅価格高騰

ミレニアル世代が家を買えるのは夢のまた夢?!

昨年、オンタリオ州の住宅の平均購入価格は90万カナダドルだった。それに比べて州に住んでいる25歳から34歳の平均収入はおよそ5万カナダドル。この購入価格では、ミレニアル世代はなんと20年以上も貯金しなければダウンペイメント(頭金)が払えないという計算になる。働く人口が密集するトロントでは平均価格が110万カナダドル(1.1億円)にも昇っており、ミレニアル世代が家を買いたければは27年も貯金しなければならない。家賃だけでも収入のおよそ半分を占める中、マイホームのために貯金するとなると家計は
厳しいのではないだろうか。

住宅の供給が間に合わない

トロントとバンクーバーでの住宅価値の高騰はニュースで最も取り上げられているが、実は国内の意外なところでも変化が起きている。カナダには一年のうちに引き上げられる家賃の割合や頻度に制限がある(Rent increase capと呼ばれる)。しかし、アルバータ州のみ制限が全くないため、昨年の間に家賃が24%も上がったという例もある。

次に学生の多いオンタリオ州の「Tri-Cities」と呼ばれるキッチナー、ウオータールー、ケンブリッジエリアではコロナウイルスの蔓延が落ち着いた今、海外からの留学生が急増している。学生人口が増える一方、住宅の供給が間に合っていないそうだ。

最後にノバスコシア州の州都ハリファックスでは近年海外からの移民と同じ割合で国内からの移住者の数も膨らんだ。他の州に比べて家賃や家の購入価格が低いほか、パンデミック中の州の対応も評判が良かったため、特にリモート環境で仕事をできる人に人気が出たと言われている。しかし今では賃貸に空きが全くない状況で、家賃高騰に影響している。

クレジットスコア

さてカナダで家やアパートを借りる、または購入する時に必要なのがクレジットスコア。これは日本では普及していないため、カナダで初めて聞いたという人も多いのでは。クレジットスコアとはクレジットカードの支払い履歴(クレジットヒストリー)に基づきその人が信用できるかどうかをスコア化したもの。カナダやアメリカでは車の購入や不動産の手続き、そして新しいクレジットカードを作るために必要だ。支払い期限と限度を守ることや長くクレジットカードを保有することでスコアを良くすることができる。このスコアを高くキープしていないと購入プロセスを始められないので厄介だ。

外国人による住宅購入を2年間禁止・空き家税の導入

昨年カナダでは外国人による住宅購入を2年間禁止する条例が可決された。幸いなことに国内への永住者と留学生は対象外とされている。この禁止令は国内の住宅供給を国民がフル活用するためにできたもの。最近トロントで導入された「Vacant Home Tax」(住宅購入者が長期でスペースを空き家にする場合発生する税金)も同じ目標を目指している。それらの条例だけで本当に住宅の供給が増え、家賃が低くなることに貢献するのかが心配される。トロントでは常に新しいコンドミニアムが建てられているが、その買い求めやすさと競争率もこれから変わっていくであろう。

課題2 政治情勢

国が大きく、州によって政治情勢や直面する課題が大きく異なる

カナダは国の面積が広いが人口はアメリカのわずか10分の1ほど。アメリカに似ている点はというと州によって政権与党が異なり、自由党や保守党の目指すものの違いが人の暮らしを大いに左右することだ。コロナ対策の違いもこの数年で感じられた温度差の一つなのではないだろうか。州によっては密集する人種も違えば年齢層や職業も異なり、直面する課題も変わってくる。住んでいる場所によっては全く関係なく感じるかもしれないが、国内旅行や選挙の時にカナダ全体の情勢を知っておくことに損はない。

エコのイメージが強いカナダだが、州首相の多くが反対という現実

政党制を構えている州では保守党の州首相が多い。自由党リーダーがいるのはブリティッシュ・コロンビア州とニューファンドランド・ラブラドール州のみだ。ノースウエスト準州とヌナブト準州では政党制ではなく個人で選出される議員で構成される「Consensus government 」がある。

ユーコン準州は政党制だが、連邦政府から派遣される官僚である弁務官(Commissioner)が州首相代わりの役目を果たしている。現在、連邦政府は石油やガスから再生可能エネルギーへ移り変わる「Just Transition」プランを掲げている。エコのイメージが強いカナダだが、州首相の多くが反対。例えばアルバータ州では石油産業に経済が委ねられているため、統一保守党のダニエル・スミス州首相はプランを「州の産業を滅ぼし、人々から職を奪うためだ」とバッシングしている。

ノバスコシア州でも去年の選挙で進歩保守派が当選し、12年続いたリベラル派政権に終止符を打った。連邦政府が来年から州に対して「Carbon Tax」(炭素税) を課することを受け州首相ティム・ヒューストンはアルバータ州首相同様、「このような法律はノバスコシア州の人々を苦しめるためにある」と反対。今年7月からガソリンやディーゼル、家庭用暖房燃料などに課せられる税金が上がるが、集められた税金の80%は貧困層とミドルクラスへ、10%は教育機関、先住民コミュニティー、そして中小企業へ払い戻される。

暴力事件の多発

交通機関ガイドアプリの「Moovit(ムービット)」の調査によると、トロント市民が公共交通機関を使って通勤する距離と時間は北アメリカで一番長いという。片道平均56分、およそ12.29kmの移動だ。移動時間全体を比べるとアメリカのシカゴ、ワシントンD.C.、ニューヨークと並ぶが、電車やバスの待ち時間はアメリカに比べて短い。ガソリン代や駐車場代が必要な車移動より安いので、トロントでは公共交通機関を使用する人が多い。しかし悲しいことにTTCではこの数ヶ月で暴力事件が多発。被害は乗客のみならずTTCの従業員にも広まっている。暴行以外にも窃盗やナイフで切りつけるなど、殺人事件さえも起きている。TTCの調査によると、2022年に入ってから乗客が被害にあう事件数は徐々に増えつつあった。年の初めはひと月に60件ほどだったのが、なんと11月には303件に昇ったという。それに比べて従業員が被害にあったケースは最初の6ヶ月は上昇傾向にあったものの、その後は増減していた。アンケートによると、この数ヶ月で起きた事件の急増を受けてオンタリオ州の70%以上の住民は公共交通機関を使うことを不安に思っている。

しかしTTCのまとめによると、暴力事件多発は今になって始まったことではないという。パンデミックが始まってすぐの2020年10月以来、電車やバスでの乗客被害は少なくなったというデータがあるほど以前は事件がよく起きていた。3年前にウイルス蔓延を理由にリモートワークやリモート授業に切り替わり、利用者が減ったことが被害減少と重なる。だが今ではマスク着用義務もなくなり、コロナ前の生活に戻りつつある中、電車やバスに頼る人が多くなり、事件にあってしまう人の割合も増えたのではないだろうか。

ティーン世代による殺人と強盗が増加。アルコール中毒・薬物中毒も増加

マニトバ州首相も炭素税に同じ理由で反対。州都ウィニペグでは治安が悪化している。昨年過去最多53件の殺人事件が起き、そのうち被害者10人は先住民女性だった。トロントに似てティーン世代による殺人と強盗が増加。貧困による人々のストリートギャングとの関わりや薬物乱用が懸念されている。ケベック州でも貧困層が増加。観光で有名なプリンス・エドワード・アイランド州でも貧困とその不安が引き起こすアルコール中毒などが心配されている。ノースウエスト準州では住民の薬物中毒が増える中、治療を終えてリハビリ施設から出た後のサポートを受けるための「Transitional Home」が全く存在しないという。 特に先住民の間ではオピオイド、フェンタニル、カルフェンタニルの中毒者が後を経たないという。

国が大きいほど、国民が直面する問題は様々。「カナダはエコ大国」や「カナダは安全」など国の長所をベースに一括りにしてしまいがちだが、実際に国内情勢はもっと複雑で奥深い。

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